Zアカデミアカンファレンス初開催 今こそ、改めて考えるダイバーシティ&インクルージョン

Zホールディングスの企業内大学、Zアカデミアは2020年4月の設立以来、「グループ社員の才能と情熱を解き放つ」をミッションに掲げ、年間約200講座を開講するなどし、学びの輪を広げてきました。

教え合い・学び合いの横串を社外に広げるため、講座のオープン化を推進しており、その取り組みのひとつとして、グループ内外の方が共に社会課題や共通のテーマについて話し、考える場を提供する「Zアカデミアカンファレンス」を2023年2月に開催しました。

記念すべき第一回は、昨今の社会情勢を踏まえ、「今こそ、改めて考えるダイバーシティ&インクルージョン」と題し、「女性活躍推進」と「チームコミュニケーションと心理的安全性」の2つをテーマにカンファレンスを開催。Zアカデミア学長の伊藤羊一がモデレーターとなり、ヤフー株式会社、LINE 株式会社、株式会社ZOZO、アスクル株式会社より、D&I領域や人事を管轄する役員が登壇し、トークセッションを繰り広げました。

冒頭の挨拶で、伊藤羊一は「過渡期のなかでどうやって多様性について考えていけばいいのか、参加者が自身の理解を深める場にしたい」と語りました。

日本の労働市場の課題と、ZHDグループが女性躍進を進めるために必要な視点とは?

第1部のテーマは「パーソル総合研究所の方に聞く!データから読み解く女性活躍推進とは?」。パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員 小林祐児さんが、女性活躍の現状と課題について解説し、その解決策について、ジャーナリストの浜田敬子さん、株式会社ZOZO執行役員のクリスティン・エドマン、ヤフー株式会社専務執行役員の宮澤弦がトークセッションを行いました。

伊藤羊一がファシリテーションを行い、まずは小林さんから、女性躍進が進まない背景や課題についての分析や解説、さらには解決策の提案があり、それに対して他の登壇者がディスカッションをする流れで進行しました。

小林 祐児さん:
パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員
NHK放送文化研究所、市場調査会社を経てパーソル総合研究所。2021年から総務省テレワーク関連のアドバイザリーボードメンバー

はじめに、小林さんは、女性側の昇進意欲が低いという共通の課題について解説しました。そのことは必ずしも女性側の問題というわけではないそうです。仕事と家事・育児の両立を図る両立支援策の多くは、女性の"継続就業意欲"向上にはつながったものの、"昇進意欲"向上にはあまり寄与しておらず、むしろ男性の昇進意欲を高める結果につながったとのこと。
そのため、「既存の施策では昇進意欲における男女差問題は解決せず、ピンポイントに女性の昇進意欲向上に寄与する施策が求められています」と述べました。

(左から)浜田敬子さん、ZOZOのクリスティン・エドマン、ヤフーの宮澤弦

浜田:女性活躍が進まないのは、労働環境や社会規範といった構造の問題。"女性は子育てをすべき、男性は稼ぐべき"という旧態依然の構造をどう考えていくか、これには軌道修正が必要です。

厚生労働省の統計によると、短時間勤務制度の取得者の99%が女性で、育休も短時間勤務もほとんど女性が利用しています。こうした短時間勤務者は、大事な仕事を任せてもらえないなど、短時間トラップに陥ることで、自信も昇進意欲も失ってしまいます。

両立支援策が女性だけのものになってしまうことが、かえって時間や意欲の格差につながっているように感じます。働き方が多様化するいま、定時の撤廃やスーパーフレックスタイム制の導入など、働き方全体を改革しなければ、問題の根本的な解決には至りません。女性の管理職問題はそのあとではないでしょうか。

女性躍進を推し進めるための3つのアプローチとは?

前提となる大きな課題の整理に続いて、小林さんは、女性活躍を推し進めるための3つの具体的なアプローチを解説しました。1つ目は「管理職そのものの待遇改善」です。「管理職の魅力減少を食い止めない限り、女性活躍問題の改善は難しく、一方で管理職になるための意欲を求めすぎるのも課題です」と、警鐘を鳴らしました。

また、本来、働き方改革は生産性向上が目的であったにもかかわらず、いつの間にか労働時間制限の話にすり替わってしまっていることを指摘。「仕事の取り組み方や評価、マネジメントを調整した企業が、従業員の昇進意欲を高めることに成功した事例もある」とのこと。「企業にはトップダウンによる残業禁止ではなく、評価やマネジメントの改善を含めた組織の見直しが求められるでしょう」と述べました。

エドマン:海外での働き方を見ていると、部長がお昼から子供のピアノリサイタルに出かけていたりして、こういう働き方もOKなのだと驚かされます。プライベートを大切にしながら、効率よく成果を出す働き方を実現するための教育をおこない、それを評価にもつなげていかないといけませんし、実際ZOZOでも評価制度の見直しに取り組んでいます。

宮澤:管理職の立場にあり、自分で抱え込むタイプの方は余計にパンクする状態といえます。チーム全体で結果を出すという思考に変えていかないといけません。時間ではなく成果で評価される方向に持っていくことが大事だと思います。

小林さんが提案した2つ目の対策は、「選抜方法の改善」です。日本の正社員は、選抜登用が平等的に行われていますが、その弊害として、管理職登用の年齢層が高く、徐々に高齢化しているそうです。

「選抜登用にはライフイベントも大きく影響しており、女性の出産適齢期と昇進見極め期間が重なってしまっている」とのこと。結果、男女とも結婚によって伝統的な価値観に回帰してしまう現象が起こり、企業が簡単に選抜方法を変えることができない事態につながっているのだそうです。「しかし、企業が選抜期を早めるなどの対策を施すことで、女性が不利にならないようにする余地はまだ残されているのではないでしょうか」と投げかけました。

浜田:国立女性教育会館が行った定点調査によると、入社5年までの男性と女性を比較すると、女性の方が最初から管理職につきたくないという傾向があり、時間が経つにつれて男女差がさらに広がってしまうそうです。女性社員は自分に能力があると感じながらも、管理職になりたくないという意見が多いのです。そのため、会社からの期待や機会提供が重要なのです。

一方、男性は、上司からの指導やロールモデルの存在など、無形の資産がすでに与えられていることが多いです。そのため過渡期には女性社員の支援を手厚くすることが重要だと思います。

小林さんが提唱した3つ目の対策は、「女性活躍策のリパッケージ」です。「パーソル総合研究所の調査では、4割の女性が法改正に合わせて、表面的な体裁を整えることを目的に行われていると感じており、女性活躍推進に懐疑心が強まっています」と問題点を指摘しました。

社内からの抵抗には、逆差別批判、優先登用批判、非本質批判という定型文があるそうですが、「女性登用は数字目標がクリアに決められる実践的なダイバーシティ指標です」と力強く訴えました。

また、「コーポレート部門が女性活躍を本気で考えるためには、施策を実行するには、ネーミングや独自性、対外的なコミュニケーション戦略など、創意工夫が求められています」と述べました。

浜田:女性の管理職増加は男性にとっては脅威で、こうした批判は最後の抵抗といえます。日本企業が女性管理職を増やすためには、構造的な変革が必要であり、成り手が育つような環境を作り、働き方全般を見直す必要があると思います。

オランダのNGOが発表している企業のジェンダーギャップランキングによると、1000位以内に入っている日本企業は10社しかありません。女性管理職の増加は、男女平等を実現するためだけでなく、企業の持続可能性にとっても重要な課題です。日本企業は、自らのビジネスにとってもプラスになるこの問題に積極的に取り組んでいくべきだと考えます。

働きやすい環境づくりでZOZO、ヤフーが実践していること

エドマン:ZOZOの現場を見ていると、若い社員たちは昇進意欲がすごくある一方、部長クラス以上は女性の数が限られています。若い女性社員にはもっと夢を見てほしいと感じています。

例えば、トップや役員が男女問わず残業しない、バケーションを当たり前のように取るというような、新しい働き方や基準を導入する必要があると思います。若い人たちは、現状とは異なる働き方とその考え方を求めていますから、その理想の働き方と実際の環境がマッチするようになれば、状況を変えていけると思うのです。

宮澤:ヤフー社内でアンケートを取ってみると、女性の昇進意欲など課題感には多くの共通項がありました。とくに部長から上のクラスへの意欲には如実に差が出ています。これは大きな課題ですし、日々考えながら施策に取り組んでいるところです。

意識しているのは、制度よりもまず「空気づくり」に専念することです。育休を取得した人に「戻っておいで」と声をかけ、帰ってきたときには温かく迎え入れる。そういう空気を作ることで、次第に制度もなじんでいくと思います。

会社全体でそうした空気づくりができるよう、真っ先にわかりやすく示すためにも、ヤフーでは役員全員が女性活躍の検定を受講しました。またヤフーが率先することで、同規模の会社も動いてくれる。そうして横に広がっていくことで、日本の現状を少しずつでも変えていければと思います。

コロナ禍で実践。オンラインコミュニケーションを円滑にする秘訣

第2部のテーマは「チームコミュニケーションと心理的安全性」。エール株式会社 取締役 篠田真貴子さん、LINE株式会社 上級執行役員 稲垣あゆみ、アスクル株式会社 執行役員 伊藤珠美が登壇し、引き続き、伊藤羊一がファシリテーションを行い、事前に行われたアンケートで挙がったチーム内コミュニケーションの課題に経験談を交えながら回答しました。

(左から)篠田真貴子さん、LINEの稲垣あゆみ、アスクルの伊藤珠美

――課題1「オンラインコミュニケーションがとりづらい」

篠田:新型コロナウイルスの影響で、オンライン対話が一般的になりました。個人的には、1対1で対話をする場合、変に画面情報がない方が、会話に集中してじっくり相手の話を聴くことができると感じています。

稲垣:LINEでは社員が世界各地にいるため、多拠点会議が当たり前でした。コロナ以前は会議室をおさえる必要がありましたが、それもなくなりむしろ快適です。テキストのコミュニケーションだけでの意思決定にも10年近く取り組んできました。言語が違う場合でも通訳ボットが自動的に入るので、会議で要請するよりもテキストの方が速いこともよくあります。

伊藤(珠):最近、IT系の女性社員はアバターを活用してメタバース会議を行っています。初対面の人とはアバターを使った会議のほうが入りやすく、テーマ設定をしている会議ではオンラインが向いていることもわかってきました。「オンラインでの課題が0になることはない」という前提のもと、リアルとオンラインの使い分けをしていくことが大切ではないでしょうか。

伊藤(羊):大学でオンライン講義をするときに、画面をオフにする学生がいます。コミュニケーションは双方向で、学生の表情やうなずきでも話し手からすると情報なので、オンにしてほしいというけれども、それが正解なのかはわからないです。

篠田:会議の目的や場の設定が大事だと思います。オンラインだと移動中でも聞いて、重要なところでは「5分後に話します」とコメントで差し込むこともできます。あえて自由にしていると、オンにして話しかけてくる人がこの課題では中核メンバーだというようなこともわかります。会議はこうやるものという型にとらわれず、一度ステップバックして設計しなおすといいのかもしれません。

――課題2「自発的に動けないメンバーへの対応」

伊藤(珠):自分の意見を言ったことで周りからどう思われるか、その意見やアイデアを言ったことで責任を負わされるといった懸念がある場合、アイデア出しと責任を分けることが望ましいかもしれません。安心して意見を言うことができる環境を作ることが求められ、会社全体でアイデアを出すことが会社にとってプラスになるという雰囲気を出していくことが重要です。

私自身は、アイデア出しするような場で他人の意見を否定しないというルールをつくることや、一回受け止めるというような、最低限のルールのもとに進めていく工夫をしています。

稲垣:LINEが作られた当初は定例会議というものがあまりなく、必要なときにメンバーがその場ですぐに集まって話して解決していました。ですが今は組織も大きくなり、たとえば管理部門でも、自分の部門だけで解決できないことや他部門との調整が難航するということも起こるようになってきました。なので、会議の場だけではなく、社員同士の関係性をつくれるようなワークショップを定期的に行って、みんなで会社をよくしていこうと取り組んでいます。

伊藤(珠):昔は誰もがざっくばらんに話せるワイガヤルームを作って、ワチャワチャしながらつくっていった経験があります。3.11のとき仙台の物流センターが被災した際は、災害対策本部をすぐに立ち上げました。皆が自発的に意見を出して、日々刻々と状況が変化する中で意思決定を毎日していました。お客様へサービスを提供し続ける責任もあるし、この状況を1日でも早く乗り越えないといけないという気持ちも強く、そこで物が言えない壁を感じたことはありませんでした。

篠田:『恐れのない組織』(エイミー・C・エドモンドソン 著)のなかでも言われていますが、心理的安全性は人為的につくる必要があります。人は馬鹿だと思われたり、傷つけられたりすることを避けるために、自然と意見を出さない傾向にあるのです。しかしそれでは困る。じゃあどうするか、というのが出発点です。

その上で問いかけの仕方が重要です。心理的安全性を高めるには何がチームにとって必要なのかを見定め、業績目標に向けて課題解決に取り組む必要があります。みんな何を言ってもいいよということは「お互いにバンバン言われるということ」でもあります。チームとしての成果を出すために、言われる覚悟を持つのです。

伊藤(珠):本社で企画したことを現場でやるように言われるだけだと前に進まないと考えています。そのため、チームで一緒に考えるプロセスを大事にし、ボトムアップ的にアイデアを挙げるようにしています。チームにとって最も怖いことは、正しいことや本質的な課題がわからないこと。言いやすい環境を整えることが重要です。

――課題3「環境の違いによる不平等感」

稲垣:短時間勤務をしている人の方が、むしろ「会議に入らないといけない」というプレッシャーを多く感じていると思いますが、無理に入る必要はありません。議事録で情報を共有するので、置いていかれることがないようにしています。

逆にマネジメントする側としては、できるだけその時間に重要な会議を入れないようにし、その人が置いてきぼりにならないように配慮する必要があります。その人の状況を理解し、一緒に取り組んでいくというコミュニケーションレベルの話だと思います。

篠田:不平等感は、直接対話すると解消することもあります。これまでは均質なブロックを積み上げたブロック塀のように一様な組織が優れているとされていた。今、社会の変化の中で期待されているのは、さまざまな形の石を活かして組み上げる石垣のような組織です。お互いのサイズ感やとんがり方の違いを理解しないと組み合えない。

その理解し合うプロセスが、対話であり、聴くことであり、新しい社会のリーダーシップなのだと思うのです。それと同時に、ご自身の大きさやとんがり方も理解していないと組み合えません。こう思うと、努力の方法もチームワークでの時間の使い方も、全く違うものに変わってきます。

誰にも得意不得意がありますが、できないことは「チャームポイント」と捉え、それが得意な人への活躍機会の提供と捉えるようにしています。石垣を組むというのはまさにこのことで、このマインドでもう一度自分のチームを見ると、新しく何かができるチャンスが芽生える気がします。

―― ■Zホールディングスとして、さらなるダイバーシティ&インクルージョンのアップデートを

モデレーターを務めたZアカデミア学長の伊藤羊一は、冒頭から「みんな違って、みんないい」はずが、そうなっていない日本社会の課題に危機感を示しました。また、インターネット元年と言える1995年から、個人が力を持ち、現実がフラットになってきているなかで、日本企業の多くが現実にフィットできずに、世界にどんどん遅れをとっていることも無関係ではないのではないかと疑問を呈しました。

さらに、ディスカッションを経て、「表面的なものだけではなく、根源的な部分を知ろうとすることが大事だ。そのためには他者との対話の中で、無意識の中にあるバイアスをどれだけ乗り越えられるか。その努力を継続できるかが重要ではないか」と振り返りました。

そして、企業はもちろん、多様なメンバーが集まる、Zホールディングスグループとして、「みんなが安心して、高いパフォーマンスを発揮する」こと、「誰かに推進してもらうのではなく、一人ひとりが当事者として考える」ことの重要性を再認識していました。

Zホールディングスグループの各社では、引き続き、従業員一人ひとりが、ライフステージや属性などの違いにかかわらず、最大のパフォーマンスを発揮できるように、働き方のアップデートを行っていきます。

今回のアーカイブ動画・前編

今回のアーカイブ動画・後編

ダイバーシティ
https://www.z-holdings.co.jp/sustainability/stakeholder/10/

サステナブル人材育成の鍵は? Zホールディングスの企業内大学「Zサステナビリティアカデミア」の狙いと展望
https://www.z-holdings.co.jp/strategy/12/

  • 取材日:2023年2月20日 公開日:2023年4月24日
    (この記事は、2023年2月20日Zホールディングス株式会社が開催した、報道関係者向けのZアカデミアカンファレンスを元に構成しました)
    記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
    執筆:水口幹之・石川聡子 編集:Dellows