【アスクル×ZOZO×ヤフー】これからのECは売って終わりじゃない。サーキュラーエコノミー実現を目指すZホールディングス各社の挑戦

大量生産・大量消費・大量廃棄による自然環境破壊や地球温暖化。これら環境問題は世界的に大きな課題となっています。そこで、日本国内でも注目が高まっているのが、廃棄されてきた製品や原材料などを"資源"と捉え、再利用することで資源を循環させる経済システム、サーキュラーエコノミーです。今回はアスクル、ZOZO、ヤフーの各社で取り組みを推進するキーパーソンに集まってもらい、サーキュラーエコノミー実現に向けた具体的事例や反響、そして今後の展望について聞きました。

PROFILE

東 俊一郎/アスクル株式会社 コーポレート本部 コーポレートコミュニケーション サステナビリティ(環境)担当部長
1999年入社。オリジナル商品の環境ラベルの管理体制の構築、ISO14001の新規取得の立ち上げに関わる。2010年からコピー用紙の原材料に関わるプロジェクトに従事。2016年から現職。アスクルの環境活動全般の企画・推進の統括を担当。
島村 龍也/株式会社ZOZO マーケティング本部 USED事業部 ディレクター
株式会社ZOZOUSEDの前身である株式会社クラウンジュエルに2010年に入社し、物流、バイヤー、MD、PMなど幅広く経験。2019年の株式会社ZOZOへの吸収合併以降は、USED事業部のディレクターとしてZOZOUSED事業全体を統括している。
松尾 怜/ヤフー株式会社 コマースグループヤフオク!統括本部 フリマ推進本部 フリマ企画部 部長
2017年に新卒入社。Yahoo!ショッピングで出店ストア向けの広告営業を経て、2019年にフリマサービス立ち上げ組織の企画チームに配属され、現職に至る。PayPayフリマサービス全般のプロダクトを担当。

買う、売る、生まれ変わらせる。資源を循環させるECサービスの仕掛けとは

――サーキュラーエコノミー実現に向け、現在どのような取り組みを行っていますか。立ち上げの経緯を含め教えてください。

東:アスクルは20224月に、資源循環の取り組みを促進する「アスクル資源循環プラットフォーム」を立ち上げました。さかのぼること5年前、2018年、G7サミットで海洋プラスチックごみ問題が議題として取り上げられたり、その後2020年に日本でもレジ袋の有料化がスタートしたりと、プラスチックごみ問題への関心が高まっていた頃でした。「お客様のために進化する」をDNAに掲げる私たちも、何かできることはないかと模索するなか、オフィスでたまっていく一方だったクリアホルダーに着目しました。そして、事業者さまから使用済みクリアホルダーを回収、分別、再資源化するリサイクルスキームを構築し、ただ製品を売って終わりにしない、循環型のビジネスモデルに挑戦するようになりました。202212月には使用済みクリアホルダーを再製品化したPBシリーズ「Matakul(マタクル)」の販売を開始し、お客様にお買い上げいただけるようになりました。ご参加いただいた会社は20236月までで累計1,529社です。

シリーズ名の由来は、使用済み商品が「また、戻って来る」ことから
役目を終えたアスクルカタログを再利用した「Come bag(カムバッグ)」の事例も

島村:ZOZOは、ZOZOTOWN上で古着を取り扱う「ZOZOUSED」で、2016年に「買い替え割」というサービスをローンチしました。古着の仕入れを増やすために、さまざまな施策を打ち出すなかで、商品を"買う"側のユーザーに"売る"というアクションを促すことはできないだろうかと考え始めました。そうして生まれたのが「買い替え割」です。システムはいたってシンプルで、ZOZOTOWNで買い物し決済に進むと、過去にZOZOTOWNで購入した商品の下取り価格が表示されます。ユーザーはそのなかから手放してもいいなと思う商品を選択することで、下取り価格を差し引いた割引金額で新たに商品を購入できるという仕組みです。下取りした商品は、後日購入した商品と一緒に届くリユースバッグ(※1)に詰めて集荷するだけです。「買い替え割」の大きなポイントは、"買う"と"売る"が同時に完了すること。手軽に、かつ効率的に売り買いできるのは、循環型という点でもメリットを感じています。「買い替え割」を通じて、これまでに累計2,000万点以上の商品を循環してきました。

※1:下取りしたアイテムを入れて送る専用のバッグ「リユースバッグ」も再利用しながら使われている

松尾:ヤフーは2019年に、不要品を気軽に売買できるプラットフォームとして「PayPayフリマ」をスタートしました。それまでは、高額商品などもネットオークションで取引できる「ヤフオク!」が二次流通事業のメインでしたが、C to C事業のさらなる拡大を図り、より手軽さを追求して立ち上げたのが「PayPayフリマ」です。PayPayで支払いや売上金の受け取りができるのはもちろん、ZOZOの「WEAR」との連携といったZHDグループならではの組織力とデータを活かしたサービスです。
2020年には「Yahoo!ショッピング」と「PayPayモール(※2)」を連携し、それぞれの購入履歴から直接「PayPayフリマ」へ出品できる仕組みをつくりました。履歴データから商品情報が自動的に反映されることにより、ユーザーの手間も大幅に軽減。2022年には「WEAR」と連携し、投稿されたコーディネートのアイテムを手軽に出品・購入できるシステムを構築しました。
2023年中にはアプリが累計2,000万ダウンロードを超える見込みで、リユースの観点でいえば、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みとして、一定の効果が得られているのではないかと考えています。

  • ※2:2022年10月にYahoo!ショッピングに統合
フリマ初心者も参加しやすいスマホひとつでできる手軽さが魅力のひとつ

――取り組みの中で苦労した点は? またどのようにして乗り越えましたか?

東:2012年にアスクルのPBを全て環境配慮型商品にしていますが、その商品や素材が使用された後に、リサイクルに繋がっているのかを確認することは私たちにはできません。原料採取から製造、販売、使用、廃棄という従来型のリニアエコノミーに対し、循環型社会を構成するひとつであるサーキュラーエコノミーは、使用済み製品の回収に想像を上回る時間とコストがかかったり、リサイクル材を採用することで製造工程や品質管理の方法が大きく変わったりと、今までにない壁が見えてきました。

ただし、ものづくりの条件や手順を見直す作業は、どのようなコンフリクトが起きるのかを体験するいい機会になりました。サーキュラーエコノミーを実現するうえで大切なのは、利用者の行動の変容をいかに促すか、利用者に情報をどれだけ丁寧に、かつ正確に分かりやすく、責任をもって提供できるかということです。今もなお立ちはだかる壁は大きいですが、まずはアクションを起こすことが、エシカル消費につながる第一歩だと考えます。

島村:ZOZOの「買い替え割」考案時の最大の課題は、"買う"ユーザーに"売る"という行為をいかに想起させ、そのハードルを下げるかということでした。今では、将来的に売ることを意識しながら物を買う消費スタイルが若年層を中心に広まっている印象がありますが、ローンチ当時は、個人が私物を売る行為はあまり一般的ではありませんでした。「買い替え割」を考案したときに意識したのは、気付いたら売っているという状態をつくること。下取り商品の発送も手軽さを重視し、軽くて扱いやすい不織布バッグを開発しました。このバッグは平均56回往復して使われ、全体の8割程度は再利用できています。「買い替え割」はサーキュラーエコノミーを目的として始めたサービスではありませんが、ユーザビリティを考えて運用していった結果、環境に配慮した仕組みを構築することができたと考えています。

松尾:PayPayフリマ」も、いかにユーザーに気軽に利用してもらうかが大きな焦点でした。ユーザーのネックになっていたのが、商品の撮影や商品情報の記載など、出品までの準備に手間がかかること。どうにかその障壁を取り除き、ユーザーが積極的に出品したいと思えるきっかけをつくれないか考えた結果、先ほどお伝えした通り、ZHDグループ内で連携したデータ活用を取り入れることになり、このアイデアが功を奏しました。

それでも、フリマ未経験のユーザーはまだまだ多く、どのようにアプローチするのが効果的か常に模索しています。一度でも売買の楽しさを知っていただければ、きっと夢中になるはず。フリマで小さな成功を体験していただくためにも、利用したくなるような施策を練っているところです。

――実際に、ユーザーやお客様からどういった反響がありますか? またどのようなライフスタイルの変化をもたらすと期待しますか?

東:多くのオフィス用品は廃棄されることが多いと思いますし、私たちも使い捨てていたのが現状でした。しかし、気候変動や資源の枯渇という背景を踏まえ、このままでいいのだろうかと考えると、社内からも取引先からも、「現状を変えたい」「一緒に解決しましょう」と賛同してくれる方が思いの外たくさんいることがわかったんです。環境問題について、思っていること、感じていることを口に出す場を設けること、率先して行動することが大事なんだと気付かされました。

島村:ZOZOUSEDを利用した方の中には、「低価格でこんな高品質なものが手に入るなんて!」「あのとき買えなかったアイテムが見つかった!」などと予想外の出会いがあったり、商品を売ってポイントとして金銭的価値が得られたりと、「使ってよかった」とリピート率も高まっています。ZOZOUSEDが提供する古着によって、お客様ファッションを楽しむ選択肢を増やせていたら嬉しいですね。

松尾:PayPayフリマ」で最も出品率が高いのはファッションのカテゴリーで、親御さんが子ども服を出品しているケースをよく見かけます。また、成長の早いお子さんの服をなるべく安く、お得に買いたいという方も多いことから、大人だけでなく子どもも含めて、環境にもお財布にもやさしい好循環が生まれているように思います。

エシカル消費をどう促す? サステナビリティな未来へつながる「買う+α」の作り方

――一方で、「エシカル消費」についての一般的な認知度は高いとは言えないという調査結果(※3)も出ています。「エシカル」に対するお客様のマインドをどう捉えていますか? また意識を高めるために、どういったことが必要だと考えますか?

東:何をもってエシカルとするかは人それぞれで、生きている時代によっても当然変わってきます。エシカル消費とはどんな行動を指し、どういう風に未来に影響するのか。まずはそれをみんなで考えていくことが、大事なことではないでしょうか。

環境に配慮した商品はどうしても価格が高くなる傾向があり、提供する立場からは、ジレンマを感じます。ただ、高いから売れなくてもそういうものだ、と考えて普及させることを諦めるのではなく、どうしたら手に取ってもらえるか、関心をもってもらえるか、見せ方や伝え方を工夫する努力を続ける姿勢は企業にとって不可欠だと思います。

島村:お客様が環境問題と向き合い、自分の意思で商品を選ぶことで、人生をより豊かにしていく。そんなお手伝いができるように、私たちも持つべき知識を持ち、必要な情報を届けるよう努めています。ファッションをもっと楽しむために"売る"という選択肢を提供する。そして、それが素晴らしい未来へとつながっていく。そう信じて、日々業務に励んでいます。

松尾:エシカル消費のような社会的課題を自分ごとに捉えることは、とてもハードルが高いことです。ただ、欲しかったものがお得に、簡単に手に入るという楽しい体験を増やしていき、リユースがもっと身近になるよう、あらゆる可能性を探っていきたいと思います。

――いずれの取り組みも、ユーザーにとって手間や金銭的負担がなく、気軽にサーキュラーエコノミーに参加できる取り組みだと思います。今後もサーキュラーエコノミーを推進していくにあたり、どのような発信を続けたいと考えますか?

東:企業が環境問題に取り組むことは、社会に対しての責任を果たすことと考えてよいと思います。30年間のアスクルの歴史を振りかえると、「Matakul(マタクル)」のクリアホルダーは私たちのビジネスに欠かせない存在で、素材や使い勝手には強いこだわりと信念があります。プラスチックごみが問題視されるなか、これまで培ってきた販売やモノ作りの経験をどう活かし、どう未来の社会につなげていくか。私たちの資源循環の挑戦に共感し、仲間になってもらうためには、行動と責任が伴っていなければ価値は失われます。

環境問題は複雑化しており、個社では解決できません。ZHDグループ内で連携しながら共通の課題を認識し、課題解決を目指し、そのプロセスや上手くいったこと、上手くいかなかったことを正直に社会へ伝えていくことがよいと思います。まずはアクションを起こす。失敗してもいいから、チャレンジし続ける。私たちはそうありたいと考えています。

島村:ショッピングの選択肢を増やした今のリユースサービスは二次流通の概念を大きく変えたと思っています。
ZOZOUSEDフリマサービスが台頭し売り買いが身近になる以前より古着に向き合い、10周年を迎えた現在もプラットフォームとして進化し続けています。ZOZOならではのファッションとテクノロジーの掛け合わせで、これからも解決できることを増やしつつ、ファッション業界のインフラになることを目指しさらに成長していきたいです。

松尾:エシカル消費の最適解を導き出すには、自社の力だけでは手の届きにくい領域もあります。ZHDグループだからこそできることを積極的に取り入れていくことも戦略の一つだと考えています。各社の強みとブランディング力を活かし、お客様の行動がサステナビリティな未来を切り開いていく、そんな施策を引き続き生み出していきたいですね。

 

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  • 取材日:2023年7月21日 公開日:2023年8月25日
    記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
    取材・執筆:鴨井里枝 編集:石川聡子(Dellows)