自治体DXのハブ機能を目指すZホールディングスの「LODGE」 キーパーソンが語る現在地と未来

ヤフーが紀尾井町へのオフィス移転を機に、本社ビル内にオープンした「LODGE(ロッジ)」。一般開放のコワーキングスペース時代、コロナ禍の休館・リニューアルを経て、現在はZホールディングスグループ向けのスペースとして運営しています。今年で8年目に突入した「LODGE」の現在地、そして未来とは。「LODGE」の運営責任者である徳應和典と、運営に携わる中川雅史の両人に聞きました。

・LODGE公式サイト
https://www.z-lodge.com

コロナ禍を経て見えてきた"水くみ役"。オープンコラボレーションハブ「LODGE」の取り組み

PROFILE

徳應和典/LODGE運営責任者
旅行代理店勤務を経て2001年ヤフー入社。法人ソリューション事業のデザイナー、コンサルタント、新規事業部門の制作部長、オウンドメディア室長を経て現職。オウンドメディア室長時代から趣味で始めたドローンにのめり込み、復興庁の映像案件の空撮協力など「ドローンおじさん」としても活動している。
開放感のあるLODGE内には、チームなどで議論しやすいテーブルのほか、集中できる個人ブースなど、さまざまな環境が用意されている

――「LODGE」がどんな場所か教えてください。

徳應:「LODGE」は2016年11月に、ヤフー本社の17階につくられたスペースです。現在はZホールディングスグループ向けのサテライトオフィス・イベントスペースとして運営しています。「オープンコラボレーションスペース」として、一般の方に無料で開放していた時期もありますが、現在は「オープンコラボレーションハブ」を名乗り、「公益性」と「先進性」をテーマにさまざまなプロジェクトを進めています。

――実際、どんなプロジェクトを進めていますか?

徳應:まず「公益性」でいうと、イベントの開催や、note・YouTubeを使った情報発信で自治体DX推進をサポートしています。ヤフーにはモトヤフというOB組織が存在し、その窓口を担うなかで、モトヤフには行政で活躍されている方が多いことに気づきました。東京都副知事の宮坂さんもそうですね。モトヤフのつながり、ヤフーのデジタルソリューション、「LODGE」の発信力。これらをうまく掛け合わせることで、自治体の課題解決に貢献できるかもしれない。そう考えたのがきっかけで、自治体DX支援に取り組むようになりました。

もうひとつの「先進性」でいうと、テクノロジーを用いた分野横断的なものづくりを推進していて、さまざまなパートナーと技術実験を行ったり、情報技術を組み合わせた新しいものづくりにチャレンジしたりしています。イベントでいうと、XR領域の最新トレンドを体験する「LODGE XR Talk」や、これからのNFTを一緒に考える「LODGE NFT Talk」など、オンライン・オフラインを織り交ぜながら、イノベーション創出を目指しているところです。

――徳應さんはどういった経緯で「LODGE」に携わるようになったのでしょうか?

徳應:デザイナー職でヤフーに入社しましたが、ジョブローテーション制度のもと、さまざまな部署と役職を経験し、次の異動先の希望を聞かれたときに、「LODGE」の名前をあげました。「LODGE」が連日多くの人で賑わうのを傍目で見つつ、事業シナジーの部分で可能性を感じていたのが希望した理由です。運営メンバーに加わってすぐに当時の責任者が異動になり、2018年の下期から運営責任者を引き継ぎ、今に至ります。

「LODGE」は現在、デザイナーやエンジニア、マーケターなど、さまざまなバックグラウンドをもった5人で運営しています。メンバーには型にはまることなく、次世代イノベーションの種を生み出す存在として、個性を発揮しながら活躍してもらいたいですね。また運営メンバーが組織・業界の垣根を超えて活動する姿を通じて、誰かの助けを得ながら次のチャレンジへとつなげていくカルチャーが社内に広がっていったらいいなと思っています。

――これまで「LODGE」の役割はどんな風に変化していきましたか?

徳應:オープンしたての頃は"千客万来"で、実際多くの方にご利用いただき、スペース運営としては成功の部類だったと思います。一方で、無料で使えるコワーキングスペースとして注目を浴びたことで、本来の「コミュニケーションからイノベーションを生み出す」目的と利用実態がかけ離れてしまっていた側面もありました。そこで、さまざまな企業や人を「つなげる」、イベントの開催や発信を「くわだてる」、いわば目指すものが近い方たちと協働する"選客万来"へ舵を切り始め、次の一手を模索していました。ところが、その矢先にコロナに見舞われ、残念ながら休館せざるをえなくなったのです。

コロナ禍で、医療機関に提供するフェイスシールドを制作している様子

――コロナ禍の危機をどのように乗り越え、今の活動につなげていったのでしょうか?

徳應:コロナ禍に突入したとき、正直頭が真っ白になりました。ヤフー内外のヒト・モノ・コトをミックスして化学反応を起こすという、「LODGE」で実現したかったことがまったくできなくなり、戸惑いもありました。しかし、未曽有の事態はいつでも起こりうる、むしろ新しいことに挑戦するきっかけができたじゃないかと気持ちを前向きに切り替え、「LODGE」の方向性について、何をすべきか、何ができるかを真剣に考えていました。

先が見通せず、とりあえず今できることをやろうと模索する中で、連日ニュースになっていた医療崩壊に関して川邊社長(当時)と会話する中にヒントがありました。「LODGE」にはレーザーカッターがあるので、早速アクリル板とクリアファイルを組み合わせた簡易フェイスシールドを作り、配布し始めてみたのです。周囲の方々の協力もあり、結果的に154の病院に1万1700ほどのフェイスシールドを配布することができました。

「なぜIT企業がこんなことに取り組むのか」「LODGEがやるべきことなのか」。当時はこんな反発の声もありました。私なりの答えとしては、「1人のお医者さんを救ったら、その向こうにいる100人の患者を救えるかもしれない。1万人の医療関係者を救ったら、その先にいる100万人の国民を救えるかもしれない。そのスケールで考えたら、私たちがやる意義がみえてくるんじゃないだろうか」。社内の人間にはこう説得して、協力を仰ぎました。

わかったことは、「LODGE」だけで事業を立ち上げるのは難しいけれど、さまざまな企業や個人のハブとなり、課題からソリューションまでの「水くみ役」として機能することで、世の中の役に立つ大きな何かを成し遂げられるのではないか、ということです。そして、to B、to CのノウハウをもつZホールディングスグループが秘めるto G(Group)の可能性を「LODGE」で押し広げることができるんじゃないか。こうして、「公共性」と「先進性」という戦略が固まったのです。

――これまでの活動を振り返り、どんな手応えを感じていますか?

徳應:責任者になって5年が経ちましたが、手応えはこれから、というのが正直なところです。YouTubeでの発信も3年ほどになりますが、再生数ももっと伸ばしたいし、関わる方すべてに課題解決のヒントを得てもらえるようなコンテンツを増やしていきたいです。日々実績を積み上げていきながら、手応えを感じるところまでレベルアップしたいですね。

奥には撮影やライブ配信にも適したスタジオがあり、グループ内外のイベントで活用されている

自治体DX推進のヒントをシェア。オンラインイベント「地域DX推進ミートアップ」

PROFILE

中川雅史/コラボレーション推進部 LODGE所属
2012年、ヤフー入社。2012年の「Yahoo!クラウドソーシング」立ち上げや、サービスマネージャーを担当。2017年「働き方改革」のもと、大阪オフィスの増床&リニューアルを企画する「社内チェンジリーダー」として、オフィス運用のプロジェクトに携わる。同年、関西圏のオープンコラボレーションを支援するイベントプロジェクト「Mix Leap」を立ち上げ、イベントオーガナイザーとして各種イベント企画・運営を担当、現在に至る。

――中川さんはどういった経緯で「LODGE」に携わるようになったのでしょうか?

中川:2012年1月に大阪オフィスのエンジニアとして入社し、入社後は新規サービスの企画・マネジメントを担当してきました。その後、ヤフーが新たに大阪オフィスを増床することになり、「社員の意見を反映したオフィスづくり」を目標にした引越しプロジェクトが立ち上がりました。本社に誕生した「LODGE」みたいな場所が大阪オフィスにもほしいと提案し、オープンコラボレーションスペースの開設が実現しました。

場所はできたものの、人をどう集めるか。次のステップに差し掛かったとき、企業・自治体と連携して開催するオープンコラボレーションイベント「Mix Leap」を立ち上げました。名前の由来は、「さまざまな人が交わり(Mix)ともに飛躍(Leap)しよう」。これまで200回以上開催し、参加者はオンライン含め2万人にのぼります。

そして、「Mix Leap」の一部が「LODGE」に移管することになり、「LODGE」運営メンバーに加わることになりました。現在は「Mix Leap」と並行しながら「LODGE」の運営をオンラインでお手伝いしている形です。今も仕事の拠点は大阪ですが、「LODGE」のメンバーとは、オンラインで密にコミュニケーションを取り、協力しながら仕事を進めています。

――中川さんが「LODGE」で担当しているプロジェクトについて教えてください。

中川:主に、自治体DXを支援するためのイベント「地域DX推進ミートアップ」シリーズの企画・運営を担当しています。全国各地で行政DXが叫ばれるなかどこから手を付けたらいいのかわからないと自治体は少なくありません。DX推進の仕方は、課題の大きさや優先順位、予算によっても変わってきます。だからこそ、「こんな課題がある自治体は、こういう手順で進めてるんですよ」と取り組み事例をシェアし、解決の糸口を見つけてもらうこと、全国の自治体の手助けができれば。そんな思いで毎回取り組んでいます。

また、自治体DXは、外部のサービスやシステムの採択など、民間と手を組む必要が出てきます。地域に根ざして活動しているIT企業と自治体が、どういう風にコミュケーションをとり、どういうロジックで課題解決を組み立てていくのか、というプロセスの部分も「ミートアップ」で紹介する具体例からヒントを得てもらい、自治体DX支援の取っ掛かりにしてもらえたら嬉しいですね。

――企画を立てるときに大切にしているポイントはありますか?

中川:大切にしていることが3つあります。1つ目は、いかにその地域興味をもってもらう接点をつくるか。2つ目は、自分ごと化できる内容になっているかどうか。3つ目は、キーパーソンに何を語ってもらうか、です。DX推進に成功している地域は何が共通しているんだろうと考えたとき、やはりそこには求心力のあるキーパーソン人物がいることが多いんですよね。そういう地域に根ざした活動に主体的に取り組み、信頼を寄せられている人物が語る言葉には説得力があるので、そういう人から発せられる生身の言葉を私たちでどうすくって、料理し、発信していくかということも大事なことだと思っています。

「空飛ぶクルマで救急医療を変える!ひとりでも多くの命を救いたい〜宮崎県延岡市〜」のシーン(左が中川。右から二番目が延岡市の読谷山洋司市長。一番右が慶應大学SDM顧問の中野先生)

――印象に残っている「ミートアップ」の回はありますか?

中川:シリーズ9回目の「空飛ぶクルマで救急医療を変える!ひとりでも多くの命を救いたい〜宮崎県延岡市〜」は面白かったですね。デジタルスマートシティ構想を推進する延岡市は、空飛ぶクルマの活用で救急医療の課題解決を目指す「"救急"as a Service(QaaS)」というプロジェクトに取り組んでいる地域です。市長自ら熱意を持って取り組んでいて、「延岡市が率先的に動くことで、全国の同じ課題を抱えた自治体にも展開できる糸口になるはずだ」ともおっしゃっていただき、あらためてリーダーが熱量を持って取り組んでいる地域はDXが成功しやすい、というのが証明された回になったと思います。

一人でも多くの命を救う救急救命医療DX、空飛ぶクルマ実用化を目指す宮崎県延岡市の想い(地域DX推進ミートアップ#09レポート)
https://note.com/lodge/n/n332135fbef74

ほかには、シリーズ4回目の「自治体DXにはだかる3つの壁を超えてゆけ!」も印象に残っています。元自治体職員で現在はIT企業を経営されているお二方に登壇していただき、それぞれの視点から自治体DXの課題について語ってもらいましたが、現場が抱えるテクニカルな問題点に加え、行政組織の構造や予算決め、職員のマインドセットなどを民間企業の立場からひもとき、ざっくばらんに語ってもらったことで、自治体庁内の事情を知る機会としても非常に実りある回になったと思います。参加者のなかにも「自治体あるあるだよね」と共感されていた方が非常に多かったです。

自治体DX壁越えのヒントは「寄り添うマインド」!? (地域DX推進ミートアップ#04レポート)
https://note.com/lodge/n/n107fe4ffaf34

――今後、どんな「ミートアップ」を実施したいですか?

中川:これまで10回開催してきましたが、自治体DXの取り組み、そしてその取り組みを紹介する「ミートアップ」が、その地域に住んでいる住民の方たちに実のところどれぐらい響いているのか、暮らしにプラスに働いているのか、というのがまだはっきり見えてきていないところに現状の課題を感じています。この「民」が抜けているなという感覚と向き合いつつ、今後は「民」も巻き込んでいけるような、より住民の方たちの視点に寄り添った企画を考え、自治体DXをよりよいものにしていけたらいいなと思います。

日々、多様な人材が集まり、さまざまなカタチのオープンコラボレーションが実践されている

目指すは自治体DXのメッカ。公益性と先進性が交差する「LODGE」が描く未来

――「LODGE」をどんな場所にしていきたいか、それぞれお聞かせください。

徳應:自治体DXの梁山泊(※)を目指したいですね。行政手続きや業務効率化、地域活性化など、すべての地域においてDXのチャンスがまだまだあると思います。行政DXの先にいる住民の方は、見方を変えればヤフーやLINE、さらにはZホールディングスグループが提供する事業・サービスのユーザーでもあり、自治体DXを通じて、誰しも平等にデジタルの恩恵を受けられる環境を整えることはIT企業としての責任でもあり、ユーザーへの還元だとも考えています。だからこそしっかりやっていきたいし、より貢献していきたいです。

幸運にも、ここ紀尾井町は国の政策をつかさどる永田町も近く、都道府県会館も隣に位置しています。そんな地理的な優位性も活かして、「LODGE」が自治体DXのメッカと呼ばれるよう、今後も「LODGE」流の課題解決にチャレンジしたいと思います。

※中国の小説『水滸伝』で「優れた人物たち(有志)が集まる場所」として描かれた沼地。

中川:「ミートアップ」に登壇した自治体からは「よいPRができた」「貴重な経験ができた」といった声をいただいています。自治体の場合、中の人が生の声を伝える機会や手段が限られていることもあり、そんな風に感謝の気持ちを伝えてもらったときに、「LODGE」だからこそできることの意義を感じますし、次の企画づくりへの励みにもなっています。

大阪で「Mix Leap」を始めたときから、「これまで交わったことない人たちが交わることで、課題解決のヒントが得られる場所を作りたい」という思いに変わりはありません。それは「LODGE」でも同じで、「そこは常に面白いことをやっている」と思われるように、これからも一人でも多くの方に活用してもらい、さらにつながりを増やしていきたいです。

LODGE公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@LODGE_Zholdings

LODGE公式note
https://note.com/lodge/

Mix Leap
https://yahoo-osaka.connpass.com/

  • 聞き手・編集:石川聡子(Dellows)、執筆:樋口正