日本発の世界第三極へ。アジアで広がるLINEのハイパーローカライゼーション戦略とは

Zホールディングスは、「コミュニケーション」「情報」「決済」の3つを大きな起点として、日本で数多くのユーザーにサービスをご利用いただいています。その中でも最大の月間アクティブユーザー数を持つのがコミュニケーションアプリ「LINE」です。「LINE」アプリは、日本だけでなくアジアでも幅広く利用されており、Zホールディングスのグローバル事業の要となっています。ここでは、LINE株式会社の海外事業の現在地と、今後の展望についてご紹介します。

全世界で月間アクティブユーザーは約2億人

2011年6月に日本でリリースし、11周年を迎えた「LINE」アプリは、現在、グローバルでのMAU(月間アクティブユーザー数)が19,400万人に上ります。

「LINE」アプリは、日本において人口の約7割が利用する、圧倒的シェアを誇るコミュニケーションアプリとしての地位を確立しています。また日本だけでなく、台湾の人口の約9割、タイの人口の約8割と、アジア各国・地域でも広く利用されているのが特徴です。

海外事業の躍進をもたらした要因と、LINEの戦略

台湾やタイを中心として、LINEが海外事業を大きく飛躍させられたのは、いくつかの理由が考えられます。

アジア圏のコミュニケーション文化の特徴として、感情表現が直接的ではなく、曖昧さを残すことが挙げられます。「LINE」アプリはスタンプの充実に力を注いでおり、ユーザーはテキストでは伝えきれない感情や気持ちを代弁するスタンプを多用します。「ノンバーバルコミュニケーション」を好むアジア圏の文化が、「LINE」アプリの特徴とマッチしたと言えます。

また、コミュニケーションサービスが備える「ネットワーク効果」が追い風となりました。コミュニケーションサービスはその名の通り、人と人とをつなぐものであり、相手がいなければ成立しません。そのため、特定の地域で流行することで周辺地域に広がっていき、つながる友達が増えることで、ユーザーがユーザーを呼ぶ好循環を生みます。LINEではその広がりを見極め、適切なタイミングで追加のユーザー獲得、アクティビティ向上のための大規模なマーケティングを現地で実施。それがネットワーク効果を促進させ、各市場におけるユーザー基盤を構築していきました。「ネットワーク効果」は「LINE」アプリに限らないものではあるものの、それをつぶさに観測し、適切なマーケティング施策を実行したことが、シェアの拡大につながりました。

そしてこれらの背景を受けての「ハイパーローカライゼーション戦略」が、「LINE」アプリを大きく飛躍させた、他のコミュニケーションアプリと異なる戦略だと考えられます。「ハイパーローカライゼーション」とは、世界共通に画一化されたグローバルサービスではなく、その地域の多様な文化や慣習を尊重し、徹底的にローカライズをしていくこと。これは、世界で一律的に同じようなサービスを展開しているグローバルビッグテックとは対照的な思想です。

例えば、LINEスタンプがその好例です。台湾では旧正月に関するスタンプ、タイでは仏教文化に関するスタンプといったような、現地の文化に寄り添ったスタンプをリリースしています。また、各市場の現地法人の代表は現地の出身者から選出。慣習や文化をよく知る人物が経営の指揮を執ることで生まれる施策の数々が、コミュニケーションアプリ「LINE」の価値をさらに高めています 

ハイパーローカライゼーションによるサービスの多様化

台湾では、ユーザーが過去1年間にダウンロードしたスタンプは1人当たり18セット(2020年のLINE社内統計)。これは日本ユーザーに比べて約2倍の数字です。また、台湾のクリエイティブ産業にも関わっており、過去11年間で現地のLINEスタンプクリエイターは累計で77万人を超え、900万セットのスタンプを制作。スタンプ制作をさらに盛り上げるため、クリエイティブ教育プログラムの提供やスタンプ制作コンテストの実施も予定しています。また、2014年から提供している「LINE Pay」 は、台湾でNo.1のモバイル送金・決済サービスとなっています。「LINE」アプリは今や、単なるコミュニケーションアプリではなく、多様なサービスの基盤となっているのです。

台湾は、人口の約90%がLINEユーザーであり、「LINE」アプリを展開している地域の中で最も浸透率が高い市場。コミュニケーション、デジタル・マーケティング・ソリューション、エンターテインメント・アンド・コンテンツ、コマース、OMOFintech6つの事業を軸にして、LINEプラットフォーム上に強力なエコシステムを構築しています。

なかでも、コミュニケーション事業で20197月に提供を開始した「LINE Fact Checker」(無料)は、ハイパーローカライゼーションの成功事例でもあり、CSRへの取り組みとしても特徴的なサービスです。

台湾ではフェイクニュースが深刻な社会問題となっています。スウェーデンのV-Dem研究所が2022年3月に発表した調査結果によると、2021年の時点で、台湾は9年連続で外国政府が虚偽の情報を広めるために最も標的にされた地域とのこと。偽情報の拡散を抑制すべくスタートさせたLINE Fact Checkerは、2021年末までに、55万人を超えるユーザーが利用し、ファクトチェックをした2万6,878件のメッセージのうち82%がフェイク、14%が部分的に正しく、正しい情報はわずか4%となりました。なお、ニュースサービス「LINE TODAY」内にもファクトチェックのカテゴリを設け、ユーザーへ正しい情報を提供できるよう取り組んでいます。

 

人口の約80%がLINEユーザーであるタイでは、コマース、Fintech、コンテンツ&コミュニティ、マーケティングソリューションが主要事業となっており、その中で最も勢いがある一つが「LINE MAN Wongnai」です。

LINE MAN Wongnaiのベースは、LINEタイが2016年4月にローンチした、フードデリバリー、食料品・日用品デリバリー、速達郵便サービス、タクシー配車などのサービスである「LINE MAN」です。タイでは交通渋滞が日常化しており、自分で外出して用事を済ませることに対してハードルがあります。LINE MANは、そんなタイが抱える社会課題に対してアプローチした、ユーザーの日常生活をサポートするオンデマンド型アシスタントアプリです。2020年9月には、飲食店検索プラットフォームの「Wongnai」を吸収合併し、人口の約80%がユーザーである「LINE」アプリとの相乗効果により、毎月の注文数は、2020年1月から2022年8月までで15倍以上にまで成長。Wongnaiの飲食店検索・レビューサービスでは100万件の加盟店をカバーし、POSソリューションも飲食店業界No.1のシステムとして5万以上の加盟店で利用されています。また2022年9月、シリーズB投資ラウンドで2億6,500万USドルを資金調達し、LINE MAN Wongnaiの企業価値は10億USドルを突破しました。

LINEのミッションは「CLOSING THE DISTANCE(世界中の人と人、人と情報・サービスとの距離を縮める)」。それを達成するためのビジョンとして「Life on LINE」を掲げています。台湾のLINE Fact CheckerもタイのLINE MAN Wongnaiも、現地のニーズを捉えて企画・開発・運営をした結果、事業の拡大に成功しました。「LINE」アプリというプラットフォームを介して、さまざまなサービスを創出する。社会の構成要素の一つである企業は、常にCSRについて考え、取り組む必要があり、LINE社ではその一部を「ハイパーローカライゼーション」を用いて各国・地域に適したかたちで提供することで実現しました。今後のサービスでも、これらを相互に作用させることが、ユーザーにとってより便利なものを創出し、事業を拡大していくカギとなるはずです。

海外における5つの強化領域

LINE社のサービスの強化領域は大きく5つあり、それらは国・地域によって異なります。

台湾やタイのような市場占有率の高い地域における強化領域は、銀行、電子決済サービス、コマースです。

2018年からスタートした銀行事業は現在、タイ、台湾、インドネシアでサービスを提供。「Banking in Your Hand」のスローガンの下、現地の金融企業とパートナーシップを組んで進めています。初めて着手したタイでは、現地大手のカシコン銀行と合弁会社をつくり、2020年10月に「LINE BK」を開業。タイで国内初のソーシャル・バンキング・サービスを提供し、2022年9月末でユーザー数が約500万人に達しました。その後、台北富邦銀行などが株主として参画するLINE Bank Taiwanが提供する「LINE Bank」は2022年9月末に約132万ユーザーを突破し、2022年4月から6月までのデジタル口座(タイプ3)※の累積数などでNo.1に。韓国の大手・ハナ銀行とともにインドネシアで開業した「LINE Bank」は、2022年9月で約46万ユーザーを突破しました。

  • ※タイプ3:他の銀行口座の確認で開設されたデジタル口座

2014年に日本でローンチしたモバイル送金・決済サービスのLINE Payは、現在は台湾とタイでも提供しており、グローバルの登録ユーザー数は6,000万人を突破。台湾では利用率No.1の決済サービスに成長しました。また、EC事業が成長を続けるタイと台湾では、ソーシャルグラフを中心としたサービス展開をしています。どちらの国でも「LINEショッピング」が主要となっており、LINEポイントを活用してユーザーを集客するなど、継続的に利用してもらうための施策を積極的に打っています。

これらは、LINE社のプラットフォーマーとしての強みを活かし、高い市場占有率によりユーザーにとって使い勝手の良いサービスとして定着しつつあります。そしてこれこそ、LINE社が掲げるビジョン「Life on LINE」を体現しています。

一方で、新市場開拓の可能性を秘める領域にも力を入れています。その中心がIPとWeb3事業です。

LINEスタンプから飛び出したグローバルキャラクターブランドの「LINE FRIENDS」は、2013年10月、韓国で初のポップアップストアを開催して以降、累計400を超える出店を行い、現在は世界15の国で34店舗を運営しています。また、オンライストアの売り上げも好調です。その運営元であるLINE FRIENDSの韓国本社は、2022年に社名をIPXに変更。メタバース、バーチャルIP、NFT、Fandom関連事業に取り組み「デジタルIPプラットフォーム」になることを目指します。

また、Web3は、昨今注目を集める次世代のインターネット概念です。LINE社は、その基盤となるブロックチェーンの技術開発に2018年から取り組み、独自メインネットとなる「LINE Blockchain」を開発。この基盤上で、ウォレットサービスやNFTマーケットプレイス、暗号資産取引所などのサービスの拡充を積極的に進めています。そして、高いシェアを持つ日本では「LINE」アプリをプラットフォームとして展開する一方、それ以外の国や地域では独自のNFTプラットフォームである「DOSI」を展開し、新たな市場の開拓も狙っています。

「CLOSING THE DISTANCE」実現のために

日本のみならず、タイや台湾をはじめとするアジア圏でも積極的な事業展開を図るLINE株式会社。今後はどのような展望を持っているのでしょうか。同社のCFOで、ZホールディングスのCGIO・Global Business CPOである黄仁埈(ファン・インジュン)は以下のように語っています。

「基本的には現在の市場や事業を伸ばしていきます。台湾・タイを中心にコア事業の広告、コミュニケーション、コンテンツに関するサービスを成長させていきながら銀行業といったFintechやコマース領域を大きく成長させていく。並行してWeb3といった新しい領域にもチャレンジし、新規市場の開拓も狙います。2021年3月にZホールディングスとLINEが経営統合し、(Zホールディングスも内包される)ソフトバンクグループには多様なサービスがありますので、長期的に連携することができればと考えます」

多くの人がLINEユーザーである日本、台湾、タイ、そしてインドネシアの事業の強化。そして、IPやWeb3を通してそれ以外の国々にもリーチすることで、LINE社が掲げる「CLOSING THE DISTANCE」はより実現に近づきます。

今回ご紹介したLINE株式会社の海外事業に関して、2022年11月21日、報道関係者向けに説明会を実施。LINE株式会社CFO/Zホールディングス株式会社CGIO・Global Business CPOである黄仁埈が、お話しをさせていただきました。その模様は下記のサイトでご紹介していますので、ぜひ、そちらも合わせてご覧いただければと思います。

LINEのグローバル事業がシェアを拡大し続ける理由
https://line-online.me/articles/l000776.html

  • 取材日:2022年11月21日 公開日:2023年1月19日
    (この記事は、2022年11月21日LINE株式会社が開催した、報道関係者向けのグローバル事業説明会を元に構成しました)
    記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
    取材・ 執筆:井上良太 編集:Dellows