Zホールディングスグループとスタートアップの共創を目指して。Zベンチャーキャピタルの戦略と可能性

2021年、YJキャピタルとLINE Ventures の合併により誕生したZ Venture Capital(以下、ZVC)。有望なスタートアップ企業の発掘、資金面だけでなくノウハウ共有など成長に向けた多様な支援、さらには事業提携機会の創出など多角的な支援を行なっています。Zホールディングス(以下、ZHD)のコーポレートベンチャーキャピタルとして、独自の投資活動を展開するZVC。スタートアップの発掘にかける想いや狙いについて、堀新一郎(代表取締役社長)に聞きました。

PROFILE

Z Venture Capital 堀 新一郎
Z Venture Capital株式会社 代表取締役社長 パートナー 堀 新一郎(ほり しんいちろう)
フューチャーアーキテクト、ドリームインキュベータを経て、2013年よりZ Venture Capital(旧YJキャピタル)に参画。東南アジアグロースファンド「EV Growth Fund」のパートナー、SBイノベンチャー取締役、Code Republicアドバイザー兼務。著書に『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(共著。Newspicksパブリッシング)。

ZHDグループの成長のために。ZVCがスタートアップを発掘し続ける理由

――堀社長がYJキャピタル(ZVCの前身)に参画されたのが2013年。当時から現在までの約10年間、日本におけるスタートアップの事業環境の変化をどう捉えていらっしゃいますか?

堀:最も変化を感じるのは、資金調達環境です。2012年に約1100億円だった国内スタートアップ市場の資金調達額は2021年に8000億円を超え、ここ10年で大きく伸展しました。

――そこまで投資が促進した大きな要因は何でしょうか?

堀:大企業が新規事業の創出に苦労する一方で、若い起業家が新しいビジネス、新しいアイデアを持っているという認識が浸透し、期待が高まっている現れだと思います。スタートアップにリスクマネーを投じる人やベンチャーキャピタルが増え、資金調達額が右肩上がりに。潤沢な資金を背景に、以前では考えられなかったような規模で上場するスタートアップが続々と登場するようになりました。

――ZVCは2021年4月に300億円ファンドを設立しました。YJキャピタルの頃から運用しているファンドと合わせると、約985億円を運用しています。統合の目的やビジョンを教えてください。

堀:YJキャピタルとLINE Ventures の統合の目的は、ZHDグループ全体で大きなシナジーを創出することです。じつは前身のYJキャピタル時代にも、当時のヤフー経営陣から「ヤフーとのシナジーをより意識した投資をしてほしい」とのリクエストを受け、投資戦略を見直しシナジー創出の要素を強化しました。言わば、強い事業をより強くするためにスタートアップに投資する、という戦略です。 その結果、2016年にビズリーチ(現ビジョナル)に出資し、2019年にはZHDとビジョナルでジョイントベンチャー(スタンバイ)を設立。また、2018年には、料理レシピ動画クラシルを運営しているdelyYJキャピタルから出資した後、ヤフーと資本業務提携を行うなど、さまざまな成果が出ています。

LINE Venturesと統合してZVCとなったことで、ヤフーやLINEなど単独の会社だけでなく、ZHDグループ全体がシナジー創出のターゲットになりました。具体的には、メディア、コマース、フィンテックというZHDが得意な事業領域で、将来パートナーになり得るスタートアップに積極的な投資をしています。その上で、ZVCの事業存続のためにしっかりと投資リターンを得ながら黒字経営を続け、ゆくゆくはアジアNO1のコーポレートベンチャーキャピタルになることを目指しています。

――投資対象のスタートアップは国内だけではなく、海外も視野に入れているそうですね。国内・国外それぞれの投資戦略について教えてください。

堀:日本ではZHDとの事業創出をメインに、ZHDグループの成長につながる有望なスタートアップとの連携を重視しています。アメリカ(拠点はサンフランシスコ)では、イノベーティブなアイデアやビジネスモデルを持つスタートアップの発掘を進めています。また、韓国(拠点はソウル)は、LINEなどのコミュニケーションアプリや、スマホに最適化されたデジタルコミック(Webtoon)など、若者世代に受け入れられるコンシューマーアプリが生まれやすい素地がある国なので、Z世代をターゲットにしたアプリを提供するスタートアップを発掘しています。

最近は、インドネシアやシンガポール、LINEが普及しているタイや台湾といった東南アジアにも注力しています。ZHDがアジアを代表するAIテックカンパニーを本気で目指す上での布石として、現地の有望なパートナーを発掘する観点で投資を行っていきたいです。

また、投資する事業領域については先ほど、メディア、コマース、フィンテックが中心とお話ししましたが、他にもブロックチェーンやヘルスケア、さらに今はZHDが手がけていないWeb3などの領域にも目を向けています。ZHDの将来を見据え、種を蒔いておくべき領域には積極的に投資していくつもりです。

起業家へ還元できる「ZHDの知見や情報」の価値

――ZVCは、堀社長を筆頭に多様なメンバーが投資活動に従事されています。投資の成功確率を上げるために何を重要視されていますか?

堀:以前、YJキャピタルの元社長で現ヤフーの小澤CEOから、「成功事例から物事を学ぶべきだ」と教わったことがあります。この事業がなぜうまくいったのかを学び、自分の中で整理することは投資判断における貴重な材料になります。幸い、ZHDにはさまざまな事業領域における成功体験があります。それらの事例と照らし合わせながら、投資先の事業がうまくいくかどうか根拠を持って見極める。これが投資の確度を高めるのにとても重要だと考えています。

加えて、ZHDのシナジーを創出するという観点で言えば、スタートアップから得られる「学び」も重要です。例えば「いまはこんな事業で成功の兆しがあって、こんなマーケティング手法が当たっている」といった情報を得ることで、ともに切磋琢磨しながら成長できます。また、逆にZHDのさまざまなナレッジをスタートアップ側に共有することもあって、例えばヤフーの1on1をスタートアップに伝授するイベントや、ZHDのリスクマネジメントなど、起業家が知りたい情報を提供する場を定期的に設けています。そうやってZHDとスタートアップの関係構築のハブになることも、我々の役割のひとつですね。

――スタートアップ側にとっては資金調達以外にも、さまざまなメリットがあると。

堀:そうですね。「ZHDグループとの共創」という部分もスタートアップにとっては大きなポイントだと思います。現在、グループにはヤフーやLINEのほか、ZOZOやアスクル、PayPayといった多種多様な事業があります。日本を代表するグループと連携できる可能性があるというのは、起業家に対して大きな魅力になっていると認識しています。

他のベンチャーキャピタルと大きく異なるのは、ZHDのアセット、なかでも人的リソースを有効活用できることです。例えば、フィンテック領域であれば、私たちのグループにはPayPay銀行やLINE証券など、金融事業に関するノウハウを持つ人材が豊富に揃っています。実際に多くのユーザーを抱えるサービスを運営しているメンバーが持つ知見やインサイトの情報は、スタートアップの方々にとって価値があると考えています。

ミッションに従って、「暮らしをよくする良質な事業」への投資を続ける

――ZVCの投資活動は、世の中の発展にどう寄与するとお考えですか?

堀:「人々の豊かな暮らしの創造」に寄与すると信じて活動しています。我々のビジョンは、ZHDと同じ【人類は、「自由自在」になれる。】ですが、ミッションに関しては独自に "Accelerate the future with Z" を掲げています。このミッションには、「ZHDグループ企業とともに未来の到来を加速させよう」というメッセージを込めています。つまり、我々の投資の目的はハイリターンを得るためではなく、「人々の暮らしをより良くする、良質なサービスや事業に投資していく」こと。それを達成し続けることが、ひいては世の中の発展につながると考えています。

――新たなスタートアップの登場や、大きな可能性を秘めたスタートアップの成長を促すために、ZVCができることは何でしょうか? 今後の展望と合わせて教えてください。

堀:一つは、投資の域を超えたコンサルティングやインテリジェンスを届けられる、戦略コンサルティングファームのような役割を果たすこと。また、マーケティング調査やM&Aの企画などを提案する投資銀行の機能を持つチームも作っていきたいです。

今後の展望としては、海外展開の強化。LINE Venturesとの合併により海外の情報を取得しやすくなったので、その強みをさらに活かしていきたいと思っています。とりわけ、北米を中心に盛り上がっているWeb3、韓国のコンシューマーアプリサービスなどは、しっかり発掘したいです。

変化の激しい時代ですから、常に世の中のトレンドを調査しフォローすることは重要で、本当に価値があるビジネスの波を逃さないようにしなければいけません。これからも、次々と生まれる新しい領域やテクノロジーを注視しながら、人々の暮らしをよくする良質な事業に投資していきたいですね。

  • 取材日:2022年8月16日 公開日:2022年9月20日

    記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
    取材・編集:末吉陽子(やじろべえ)

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