「完全オンライン株主総会」キーパーソンが語る実施の背景

2021年6月に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」が施行され、物理的な会場を用意せず、株主がインターネットなどの手段により出席する「バーチャルオンリー型」の株主総会が可能になりました(※)。これを受け、Zホールディングス(以下、ZHD)は2022617日の第27回定時株主総会を完全オンラインで開催。国内ではまだ事例の少ない方法ですが、ZHDではかねてより運営方法の研究や技術の検証など入念に準備をしてきたことから、すぐに法律の施行を見据えた定款変更を実施。直後の20226月の株主総会で実現に至りました。

そもそも株主総会を完全オンライン化する意義、実現までの経緯、初開催で重視したポイント、得られた知見や課題などについて、2020年からハイブリッド出席型でのオンライン株主総会実施を推進してきた法務統括部 株式企画部部長の尾崎太に聞きました。

  • (※)一定の要件を満たし、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた上場会社は、「場所の定めのない株主総会」(バーチャルオンリー型の株主総会)を開催することができる。

PROFILE

Zホールディングス 尾崎 太
Zホールディングス株式会社 法務統括部株式企画部 部長 尾崎 太(おざき・ふとし)
2004年ヤフー株式会社(現Zホールディングス株式会社)入社、主に株主総会、東京証券取引所開示(決算、適時開示)等に従事、2018年経済産業省「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会」委員、2021年東京株式懇話会研究部研究第2部委員。 大手企業としては、2020年に初の出席型オンライン株主総会を、2022年に初の完全オンライン株主総会を実施。

株主総会をオンライン化する意義と課題

――早速ですが、完全オンラインの株主総会が解禁されたものの、現時点での実施企業はまだ少数にとどまっています。そうしたなかで、ZHDが完全オンラインの株主総会を積極的に推進する理由について、教えてください。

ZHDは、情報通信の力を使って世の中の課題を解決することをミッションに掲げている企業グループです。当社が、事業分野だけでなく、こうした会社経営などコーポレートの分野である株主総会においても、インターネットの力を使って世の中の課題を解決することは、インターネットの価値向上、すなわちZホールディングスの企業価値の向上につながります。その意味でも、先駆者として完全オンライン株主総会を推進する意義は大きく、重要だと考えています。

―――ZHDでは、2020年にハイブリッド出席型での開催を実現。完全オンライン型の株式総会の実現に向けても、早くから準備を進めてきました。改めて、この方法での開催の意義を教えてください。

尾崎:大きく2つ、「場所の制約を受けないこと」「スムーズな対話の実現」の2つの観点から、完全オンライン型での開催意義があると考えています。

一点目、株主の皆様にとっては、やはり「場所や移動に伴う制約を受けないこと」は大きなメリットと捉えています。インターネットを活用することで遠隔地にお住まいの株主様、外出ができない株主様にもご出席いただけますし、移動時間や移動のための費用も必要としません。また、会社にとっては物理的な会場の手配や費用が不要になり、大幅な開催コストの削減にもつながります。

もうひとつの「スムーズな対話の実現」の観点ですが、当社では、2020年のハイブリッド出席型での開催以前にも、2013年から株主総会のライブ配信を開始し、2017年からは「株主総会における対話をよりスムーズなものにするためには何をすればよいか?」をテーマに、オンライン株主総会が解のひとつになり得ると仮説を立て、海外におけるオンライン株主総会の研究を開始するなど一歩ずつ進めてきました。

実際にハイブリッド出席型オンライン株主総会、完全オンライン株主総会を実施してみて、株主の皆様とのよりスムーズな対話の実現について、裏付けデータを含め、実績が出てきています。

――2021年を踏まえて、完全オンライン型の開催に向けて改善されたポイントはありますか?

尾崎:ひとつは、オンラインシステムの確認です。通信面の安定性の確保など、ベンダーのシステムを活用しつつも、より株主の皆様が安全にご出席いただけるように準備をしました。もうひとつは、操作案内の改善です。操作のご案内マニュアルに図を多用するとともに、全般的に文字数が多くならないようにすることや文字のサイズを小さくしないなど、細部にもこだわって作り込みました。

――通信障害への懸念もあると思いますが、どんな対策をとっていますか?

尾崎:完全オンラインとなりますので、万が一通信障害が起きた場合に備えて、予備の日程を設定したり、サーバーを多重化したりするなど、さまざまな対策を図っています。

オンラインで質問しやすい環境を。株主とのスムーズな対話の実現へ

――そもそも、株主総会においてZHDが大事にしていることは何なのでしょうか?

尾崎:最も大事にしていることの1つは「対話」です。株主総会では、法令に基づいた株主の皆様への経営や事業の状況報告にとどまらず、将来に向けた成長戦略やビジョンについて説明したうえで、ご納得いただけるよう努めています。そのうえで、株主総会においてご承認いただくべき経営の根幹に関すること、例えば取締役の選任や、定款の変更などにつき、ご承認を得ることが目的であり、そのためには、対話は当然重要なものと考えています。

――株主総会の完全オンライン化は、スムーズな「対話」につながるということですね。

尾崎:はい、そのように考えています。理由は大きく2つあります。1つ目は、株主総会の目的事項に関する質問からお答えできることです。リアルでの株主総会の場合、議長が発言株主様を指名し、その場でご質問をいただきますので、株主総会の目的事項とは離れたご発言、ご意見をいただくことがございました。一方、オンラインでの株主総会では、株主総会出席用のウェブサイトを通じてご質問を投稿して頂きますので、議長も株主様全体のご関心の高い、株主総会の目的事項に沿ったご質問(例えば、株主総会の決議事項、成長戦略、株主還元、あるいは、株主の皆様との共通の利益である企業価値つまり株価に関する事など)から回答ができます。この点は、株主様から満足度の観点でご評価をいただいており、よりスムーズな対話に寄与できていると捉えています。

2つ目は、質問内容の論点の明確化とそれに伴う回答数の向上です。株主様ご自身が文字数上限(200文字)のなかで要点を簡潔に整理され、その上でご質問くださっています。そのため、質問の読み上げ時間がかなり短縮され、結果としてより多くの質問にお答えできるようになりました。例えば、リアルでの開催だった20196月の株主総会では、質疑応答の時間が49分間で、取り上げた質問数が11問でしたが、完全オンラインでの開催となった2022年総会では質疑応答時間が34分間で、じつに23問ものご質問にお答えすることができ、より対話の充実にも寄与する結果となったことが客観的なデータからも明らかになりました。

――株主の方から「200文字では足りない」という声は出ていませんか?

尾崎:文字数については、初のハイブリッド出席型オンライン開催となった2020年6月株主総会の際に、社内で議論を重ねた結果、200文字と決定しましたが、じっさいにやってみたうえで株主様からのご意見やご要望を伺いながら、継続して検討することとしました。事後のアンケートやSNSの書き込みを拝見する限り、現時点では文字数が足りないという声は全くなく、むしろ「ちょうど良い」などのご評価も頂いています。今後も、ご出席される株主の皆様のご意見を伺いながら、スムーズな対話につながる形を模索していければと考えています。

「報酬云々は如何なものか?減俸に値する。」厳しい質問も包み隠さず公表

――完全オンラインによって、対話の質が向上したことは間違いなさそうですね。

尾崎:そうですね。株主総会という会社の最高の意思決定機関ではありますが、非常に多くの株主様がご参加される「会議」となりますので、会議の目的事項に沿ったよりスムーズな対話にするための工夫をしなければいけないと常に考えてきました。

先ほども触れましたが、過去の株主総会では、例えば「○○のサービスがうまく使えない。どうすればよいか?」「親戚の結婚式に祝電を送って欲しい」など、もっぱらご本人の個人的なお困りごとやご事情に終始してしまうケースもありました。もちろん当該株主様個人としては真摯なご発言なのかと存じますが、別の複数の株主様から「株主総会で取り上げるべき発言なのか?」といったご指摘をいただくケースも一定数ありました。

――そうした指摘も踏まえて、株主総会の目的に沿った質問を取り上げているわけですね。ただ、一方で「会社にとって都合の良い質問を選定しているのでは?」と懸念を持つ株主の方もいるかと思いますが、いかがでしょうか?

尾崎:バーチャル株主総会をめぐる議論の中で、そのような指摘がある事も認識をしていますが、恣意的に取り上げる質問をコントロールしているということはありません。適正性・透明性を担保するため、質疑応答において取り上げることができなかった質問含め、総会後にすべての質問と回答とあわせて公開しています。詳細は、ぜひ当社ウェブサイトの「株主総会」のページに掲載している「お寄せいただいたご質問等への回答」をご覧いただければと思います。

――例えば、どのような質問が寄せられているのでしょうか?

尾崎:事業内容から人材戦略まで多岐にわたっています。本年に関しては、株価が軟調であることを厳しく問うご質問や、報酬議案に関するご質問が多い結果となりました。また、これらを踏まえて「こんなに株価を下げているのに、報酬云々は如何なものか?減俸に値する。」など、大変厳しいご質問も頂いております。

――株主の方はインターネットを経由することで、対面よりも「率直な意見」を届けやすくなったと感じていらっしゃるのでしょうか?

尾崎:株主の皆様の受けとめ方はそれぞれとは思います。当社に限らず一般的にバーチャル株主総会をめぐる議論では、「対面だからこそ経営陣に緊張感を与えられる」との指摘があることも認識しています。

ただ、当社の場合、リアル時代の株主総会では、少ない時でも1,000名程度、多い時は1,700名を超える株主様がご来場されることもあります。大きな会場、多くの観衆、大きな緊張感のなかでのご発言の環境ですから、挙手されにくかったり、指名されても大変緊張しながら発言をされたりする場面もお見かけしました。

その点、完全オンライン株主総会では、リアルの時の様な緊張する環境でなく、ウェブサイトで入力し投稿いただきますから、ご自身で作成された質問文章を投稿前にしっかりと見直していただくことも可能となりました。つまり、株主様がより「言いたいことが言える」環境に近づいたと捉えています。

完全オンラインでの開催は、インターネットの価値向上につながる

――先ほど、完全オンラインの意義として「場所の制限を受けないこと」を挙げていただきましたが、参加者の増加など変化は見られますか?

尾崎:オンラインで発言や議決権を行使される、いわゆる「出席株主数」については、2020年から2021年にかけて急激に増加し、2022年に関しては2021年と同水準でした(1)。他方で、ログイン不要で視聴できるライブ中継で株主総会を閲覧された株主様は2021年から2022年にかけて2割以上増加したことから、議決権行使は事前(インターネット・書面)に行ったうえで当日も視聴の形で参加したい、という方が増えたのだなと捉えています(2)

また、当社は2019年までリアルでの株主総会を東京都で開催しており、直近の2019年では、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県以外の遠方からのご出席者の比率は1割にも満たない状況でしたが、オンライン開催の導入に伴い徐々に増加、現在では約3割~4割程度となり、データ上でも場所の制限を受けずにご出席される株主様が増加したと言えます(3)。株主総会のインターネット利用がより定着に向かっている流れと受け止めています。

一人でも多くの株主様にご参加いただくことで、Zホールディングスの経営状況や成長戦略への理解を深めてくださればと考えています。

  • (注1)オンライン出席株主数   2020年:92名  2021年:414名  2022年:409名
    (注2)ライブ中継閲覧株主数   2020年:567名  2021年:1,358名  2022年:1,618名
    (注3)遠方からのご出席者の比率   2019年:8%  2020年:18%  2021年:38% 2022年:34%

――完全オンライン総会への株主の方からの反響についても教えてください。

尾崎:事後のアンケートでは、例えば、我々が目指している「スムーズな対話の実現」に関しては、「質疑応答が効率的に行われていた」と運営への評価が上がりました。他に、ポジティブな意見としては「質問のポイントが明確になるので大変良い」「いろいろな意見があるのだと分かってよかった」などのお声を頂戴しています。一方で、「回答が漠然としている」「一方通行感がある」など、課題として受け止めるべきご意見も一部頂戴しています。あらゆるご意見に対して真摯に耳を傾け、次回以降の改善につなげていきたいと考えています。

ZHDは、これからもインターネットの力を使って世の中の課題を解決するため、先駆者として完全オンライン株主総会を推進していきます。

  • 取材日:2022年7月5日 公開日:2022年8月31日

    記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
    取材・編集:末吉陽子(やじろべえ)