企業内大学「Zアカデミア」でAI関連講座が盛況 ― 「Z文系AI塾」で参加者が得た学びとは?

現在、DXの推進などとともに、従業員の職業能力の再開発や再教育を行う「リスキリング」が注目されています。なかでも、AIやデータ領域のスキルやノウハウを習得できる学びの場を企業がどのように提供していくかは大きなテーマとなっています。
「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニー」の実現を目指すZホールディングスの企業内大学「Zアカデミア」でもリスキリングに力を入れており、2021年度にはグループ全社員を対象として201講座()を開催し、延べ約26,000名が参加しました。2022年にはSX(サステナビリティトランスフォーメーション)実現に向けた「Zサステナビリティアカデミア」もスタートするなど、グループ内の豊富な人材の交流を通したシナジー創出を進めています。
2021年度の「Zアカデミア」では、参加者数トップ20講座のうち10講座を「Z AI アカデミア」など、AI関連が占める結果になりました。今回は、その中でも特に人気が高く、参加者の成果が形になり始めている「Z文系AI塾」の取り組みをご紹介します。
セミナー形式:155講座、アーカイブ提供:46講座

Zホールディングス、文理両軸でAI人材を育成する「Z AIアカデミア」を発足
https://www.z-holdings.co.jp/news/press-releases/2021/0715/

ビジネス視点でサステナビリティを学ぶ「Zサステナビリティアカデミア」を開講
https://www.z-holdings.co.jp/news/press-releases/2022/0516/



「Zアカデミア」と「Z AIアカデミア」とは?

企業内大学「Zアカデミア」は、20204月に設立されました。Zホールディングスグループ従業員の横糸をつなぎ、グループシナジーを加速させる役割を担っています。グループ会社の従業員同士が「ともに未来を創る」という意識を共有し、「ともに進むべき道」を描き、学び合い、教え合う、ベースキャンプのような場所を目指しています。
2021年7月には、ヤフー、LINE、一休、アスクル、ZOZOグループよりボードメンバーが参加し、グループ各社の最新AI導入事例の共有などを行うAI人材育成コミュニティ「Z AIアカデミア」が発足。20219月からは、AIを学びたいグループ各社の文系社員を対象に半年間の実践型プログラム「Z文系AI塾」を開催し、674名のAI人材の育成に取り組むなど、グループ全体のAIに関するナレッジ・実践力の底上げ・人材育成を図っています。

グループ各社のAI領域のスペシャリストがボードメンバーとして参加

グループ内でも高い注目が集まった「Z文系AI塾」

「Z文系AI塾」では、5W1Hを踏まえたAI企画や実践的なノーコードツール(プログラミングをしなくてもアプリを作れるサービス)を使ったAIづくりも行う半年間のプログラム(オンラインで全7回)を実施。最終回では、受講者が企画したAI企画の中から投票で優秀企画を決める「みんなで選ぶベストAI企画」を開催し、「所属部門企画編」と「ZHD横断企画編」の2部門から、それぞれ3企画が選ばれました。
「所属部門企画編」2位に選ばれたアスクル・保田のAI企画「お客様の来店目的がわかるようになるよ」は、来店目的の推定によりレコメンドや販促の精度を上げるAIで、アスクルにて、実用化に向けて企画が検討されています。そこで、入賞した6名に集まってもらい、「Z文系AI塾」で得られた知見、学びについて語り合ってもらいました。

参加メンバー

アスクル株式会社 保田大輝(やすだ・だいき)
2017年にアスクル株式会社入社。ASKUL事業本部 ASKUL事業企画で、データを活用しながら部門を横断した事業戦略の企画・推進を行っている。
受賞したAI企画:「お客様の来店目的がわかるようになるよ」(来店目的の推定によりレコメンドや販促の精度を上げるAI)
LINE Fukuoka 冨髙智郷(とみたか・ともあき)
2013年にLINE Fukuoka株式会社入社。営業や審査業務を経て、現在は、Content Moderation室室長として、パトロール業務に携わっている。
受賞したAI企画:「チャットコミュニケーション感情診断」(チャット表現の改善を指摘することで円滑なコミュニケーションにつなげるAI)
ヤフー株式会社 飯田春嗣(いいだ・しゅんじ)
2007年にヤフー入社。マネージャーとして、ヤフオク!やPayPayフリマのカスタマーサポートを行っている。
受賞したAI企画:「他社用語を自社用語に変換AI」(グループ間の異なる用語を変換して、コミュニケーションを円滑にするAI)
ヤフー株式会社 大野志穂(おおの・しほ)
2017年にヤフー入社。ヤフオク!やPayPayフリマのプロダクトサポートを行っている。
受賞したAI企画:「こだわりピンポイントけんさくん」(衣類や雑貨、家具などで商品画像の特徴からアイテムを探してくれるAI)
ヤフー株式会社 浅野浩康(あさの・ひろやす)
2005年にヤフー入社。テクニカルディレクターとして、Yahoo!メールやYahoo!カレンダーなどの開発・運用に携わっている。
受賞したAI企画:「写真でらくらく日記」(撮影した写真から日記作成を簡単にでき、1日を振り返りやすくするAI)
ヤフー株式会社 梶原佑季(かじわら・ゆうき)
2013年にヤフー入社。エンジニアを経て現在はシステム企画職として、ヤフオク!の販売集客開発部で企画を行っている。
受賞したAI企画:「隙間時間マッチングソリューション」(ホテルや美容院の予約が空きそうな枠をユーザーに提案してマッチングを図るAI)

「Z文系AI塾」で得られた学びとは?

保田(アスクル):私はアスクルのデータを扱う部門で働いているので、もともとAI活用を積極的に考えていかなければならない立場にいました。受講前、社内で新規のお客様へのアプローチを考えるプロジェクトにもアサインされていたのです。そこで「Z文系AI塾」の企画では、そのテーマで取り組みました。新規のお客様は、まだ一度だけ、もしくは一度もご購入いただいていない方なので、購買実績からのアプローチは難しいです。一方でアスクルを「お店」と考えたとき、お客様には来店の目的があります。それを推定することで、アプローチが可能になるのではないかと考えました。
受講して、「AIを作る人材」よりも「AIを使いこなす人材」が不足しているという、講師・野口さん(※)話を聞いて、「AI企画で差をつけられるようになりたい」とマインドが変わりました。データサイエンスのベン図で言う、ビジネス力の部分ですね。
AI企画の入賞をきっかけに、会社として、この企画を実現させようという機運が高まり、PoC(概念実証)実施のために販売促進チームと調整を行っている最中です。

  • ※講師を務めた野口竜司氏は元ZOZO NEXT CAIOで、現ELYZAの取締役CMO

冨髙(LINE Fukuoka):私も、AIに携わっている人材は「AIと課題をマッチングして実際に作る」ことができる人材という思い込みがあり、プログラミングができない私にはハードルが高いと感じていました。しかし、第一回目の受講で「AIを作る人材よりも、AIと課題をマッチングする人材が不足している」という話を聞き、衝撃を受けたんです。
必要スキルを分解していることもそうですが、後者のスキルはたしかに現場観点で必要だし、自分も必ず身に着けないといけないと強く感じました。このきっかけにより、その後の受講に対してより強い興味が沸きました。
担当業務ではすでにAIを活用する動きがあります。受講してAIの骨組みがわかったので、「このプロジェクトの目的は?」「この方向性はあっているのか?」など考えることができるようになりました。今後は現場ベースで具体的な提案ができるように、仕組み化していきたいと思っています。

大野(ヤフー):お二人と同感ですね。AIというと、ものすごく先進的な技術だという漠然としたイメージを持っていましたが、もっと身近な課題に対しても取り入れることが可能かもしれないと、良い意味でハードルが下がりました。
実際、私が応募した企画もそうですが、入賞したものは私たちの生活にとても身近なテーマを扱ったものが多かったように感じています。
同時に、「AIを実装できるエンジニアは本当にすごい」とますます尊敬の念を抱くようにもなりました。今後、自分がAIを使う側に立ってエンジニアと議論する際に、ある程度同じ視座をもって話せるようになりたいなと思いました。作る側、使う側、どちらの苦労もわかるというか、そういうバランス感覚を持ち合わせた人間でありたいなと思っています。

飯田(ヤフー):私の部門でもAIとの関わりが増えてきていますが、言葉だけ先行して自身のアクションにつなげられないでいました。「Z文系AI塾」はまさにその課題にアプローチしていただいたものだったので、AIに対する理解度が格段に高まり、「どうすればAIに貢献できるか」というテーマに、当事者意識をもって考えることができるようになりました。
AIは知れば知るほど夢が広がりますが、無造作に放り込めば魔法のようにポンと何かが良くなるツールではないと思います。使いこなす人材がいてこそAIの良さが最大化されるものだと感じますので、学んだことを現場でもしっかり取り入れていきたいですね。

講義や企画のワークでは、各社のサービスで導入しやすいように実践的な内容が採用された

浅野(ヤフー):私はエンジニアなので、他のみなさんよりはプログラミングなどに関しては知識がある方だと思います。ただ、これまでAIに全く関わってこなかった自分としては、いきなり取り組むのはハードルが高かったので、初回の講座が非エンジニア向けというのが入りやすかったですね。入門編としてちょうど良いレベルだったように感じています。
やはり、AI領域について興味を持っているエンジニアも多いので、「Z文系AI塾」とはいえ、かなりの数のエンジニア、それにデザイナーも参加していた印象がありますね。
AI企画に関しては、正直なところ、自分の企画が入賞したので驚きました。しっかりしたフィードバックをもらえたので、あらためて、こういう場に参加して、どんどん発信していくことが大事だなと実感しました。

梶原(ヤフー):私も元エンジニアのシステム企画担当者として、貴重な学びの機会に参加できたと思っています。
一休社長の榊さんが講師として来られた講座があったのですが、メルマガの配信に関して、AIを使ってすごく細かいセグメントに打っているというお話がありました。少なければ数十ユーザーなど、ユーザーの趣向に合わせたこだわりにとても驚きました。一種類のメルマガをみんなに送るのでなく、たくさんの種類のメルマガを少人数に送るということは、運用工数がかかり、難易度が非常に高い印象があります。
私が担当しているヤフオク!PayPayフリマでも対象者を絞ってPush通知を打っていますが桁がもっと大きいものですから。またそういったモデルを榊さん自身も作って社員と結果を競っていると話していたので、社長自らがAIの先頭に立って推進しているところもすごいなと感心しました。

最後に、「Zアカデミア」の学長である伊藤羊一にもコメントをもらいました。

「学びあい、教えあう場に成長している」伊藤学長

学びのコミュニティであるZアカデミアUniversityは、発足から1年が経ち、AIやコミュニケーション、ビジネススキル、Well-beingなど150以上の様々なプログラムをリリースし、延べ2万人以上ものグループ社員に参加してもらうことができました。
さらに、様々な経歴・スキルを持つ有志のグループ社員のみなさんに、「Zアカデミア認定講師」として多くのプログラムに登壇してもらえたことで、Zアカデミアがグループ社員の「学びあい、教えあう」場となっています。
2022
年度はAIをはじめとした多くのプログラムに加え、新たな取り組みにも数多く挑戦し、この学びの輪である「アカデミア」をさらに大きく広げていきます。今後もこの取り組みに注目くださると嬉しく思います。

今後は、社外に横串を広げる展開も

このようなグループ内の豊富な人材の交流とそこから生まれるシナジー、AI人材へのリスキリングの取り組みが、Zホールディングスの中長期的な成長を支えていきます。
なお、2022年度、「Zアカデミア」では、全講座共通の効果測定指標を作成し、参加ログをデータベース化することによって、受講後の個人変化を可視化してさらなる取り組みを検討しています。また、社会共通テーマであるAIをテーマとした講座にて社外参加者を募集し、グループ外でも教え合い、学び合う「横串」を広げていくことを計画しています。

 

文系社員もAI人材へ 企業内大学のAI関連講座で得た学びとは?
https://about.yahoo.co.jp/info/blog/20220728/zaiacademia.html

  • 取材日:2022年6月8日 公開日:2022年8月2日

    記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
    取材・編集:ZHD広報部