Zホールディングスグループのアセットを組み合わせた新サービス「Yahoo!マート」誕生の裏側

2022年1月、Zホールディングスの新規事業として、約1,500点の商品を最短15分で配達するクイックコマース「Yahoo!マート by ASKUL(以下、Yahoo!マート)」が、都内8店舗で本格始動しました。事業化を牽引したのは、Zホールディングスグループのヤフー、アスクル、出前館の3社です。

急速に高まるクイックコマースへの期待に応えるべく、各社が蓄積してきた専門性やノウハウなどの"既存の知"を新規事業へと昇華。2021年7月から実証実験 を開始し、さまざまな障壁や課題を乗り越え事業化にこぎつけました。その舞台裏で3社はどのようなことに取り組み、そして今後どのような挑戦を見据えているのか、4名のキーマンが語りました。

  • ・記事中のYahoo!マートに関する情報は2022年1月時点、所属・肩書きなどは2022年3月時点のものです。
 

PROFILE

ヤフー株式会社 田中丸雄一郎(たなかまる・ゆういちろう)
2015年1月にヤフー株式会社 企業戦略本部に入社。企業戦略本部部長およびZホールディングス株式会社 投資戦略部部長(兼務)として、株式会社ZOZOとの資本業務提携、LINE株式会社との経営統合、各種事業戦略の策定、経営陣直下プロジェクトの推進などに従事。2020年12月よりヤフー株式会社COO直下(Chief of Staff to COO)。COOがリードするプロジェクトの推進やCOOの壁打ち相手に従事。
ヤフー株式会社 中尾英樹(なかお・ひでき)
2018年ヤフー株式会社に入社。PayPay株式会社にて新規組織立ち上げ、株式会社ZOZOにてPMI業務を担当したのち、クイックコマース事業のプロジェクトに参画。現在、ヤフー株式会社 事業推進統括室 クイックコマース事業部部長。
アスクル株式会社 村田恵亮(むらた・けいすけ)
2017年アスクル株式会社入社。個人向け日用品EC「LOHACO」のマーケットプレイス型販売におけるスタートアップ事業立ち上げに従事。その後LOHACO直送品商品のMD計画全般・商品戦略立案等を担当。現在は2021年12月に新設された「クイックコマース事業部」のアスクル内事業責任者として、「Yahoo!マートby ASKUL」の本格展開に伴い商品の仕入れや調達を推進中。
株式会社出前館 清村遙子(きよむら・ようこ)
2018年5月に夢の街創造委員会株式会社(現・株式会社出前館)経営企画部に入社し、同9月にシェアリングデリバリー本部を立上げ、本部長に就任。

スムーズな連携で共創のアイデアを1年以内に実現

――Yahoo!マートの発端となった事業構想の背景から教えてください。

田中丸(ヤフー):2021年2月頃、グループ内での連携を色々と模索している中で、ヤフーからアスクルと出前館に「クイックコマースに挑戦してみませんか?」と提案しました。アスクルと出前館の2社の強みや既存のアセットを踏まえると、クイックコマースに必要なピースが揃うと考えたからです。具体的には、出前館には「売り場と配達」、アスクルには「物流と仕入れ」を担ってもらうイメージで、ヤフーはプロジェクト全体のファシリテーターという立ち位置ですね。Zホールディングスグループの3社が連携することで、事業化までスピーディーに進められるだろうと考えていました。

――実際に、提案から本格的な事業化まで1年以内で実現しています。

田中丸(ヤフー):正直、想定を超えるスピード感でしたね。2021年4月に議論を開始し、3カ月後には実証店舗として1号店をオープンすることができましたから。

清村(出前館):最初は秋頃のオープンを予定していましたが、競合のクイックコマース参入の動きもあり、2カ月ほど前倒すことになりました。それができたのも、グループ内連携がスムーズに進んだからだと思います。

――アスクル、出前館はヤフーのアイデアをどのように受け止められましたか?

村田(アスクル):世界的に急成長を続けるクイックコマース事業への関心は持っていたものの、アスクルが単独で事業化するという構想はありませんでした。ですから、Zホールディングス内での事業共創の提案をもらえたことは、私たちにとっても大きなチャンスだと感じましたね。アスクルとしては、かねてより培ってきた仕入れ力や調達力といったサプライチェーンマネジメントのノウハウを活かせますし、グループ内のアセットを結集してシナジーが生まれる期待感もありました。

清村(出前館):出前館としても、全国47都道府県に築いた配達網を活かせると思い、ヤフーの提案をポジティブに受け止めました。ただ、フードだけではなく日用品も配達するということで、従来とは異なるピックアップのオペレーションを構築しなければいかなかったり、フードとは違う運び方をしなくてはいけなかったりと、いくつかの課題はありました。ただ、ヤフーやアスクルと意見交換をする中で、ほとんどの課題は解決できるだろうと手ごたえを感じましたね。

3社の得意領域×協力体制で事業化に向けたシナジーを発揮

――実証から本格展開に至るまで、どのような苦労がありましたか? 各社の立場からお聞かせください。

中尾(ヤフー):現場のオペレーションを含めた各社の業務分掌は比較的スムーズに決まりましたが、人材の採用などに関して、どのような契約を結ぶかというところで、整理や調整にやや苦労しました。また、拠点数やサービスエリアを拡張していくフェーズでは、拠点の構築や運用をヤフーが担っていくことになったのですが、そこでは物件探しで苦労しましたね。泥臭い話ですが、不動産屋巡りにはじまり、工事の施工、人材の採用、研修、運用まで、実は今でもヤフーチームの総力戦で実施しています。

村田(アスクル):私は、1号店の立ち上げに一番苦労した感覚があります。アスクルは全国に大型の配送センターを保有しており、独自の物流基盤を持っています。ただ、Yahoo!マートでは、エンドユーザーへの配送拠点として機能する店舗を立ち上げるということで、庫内管理、棚整理、荷受けといったオペレーションが従来とは様変わりします。たとえばLOHACOのセンターは坪数約13,000坪ですが、1号店は50坪です。極端に床面積が減るので、かなり試行錯誤しながらオペレーションを構築しました。大変でしたが、チャレンジして良かったと思っています。なぜなら、これまでアスクルが培ってきた物流センター内の作業効率ノウハウや管理スキームなどを応用できる手ごたえを感じたからです。

清村(出前館):出前館は注文の窓口になるため、通常よりも多い商品点数となるクイックコマースの特性に合わせ、カテゴリを増やすなどのサイトの見せ方にも注力しました。あとは、冷凍商品も扱いたいということで、気温が高い日でも商品の品質を保つ配達方法の検証作業にも苦労しましたね。出前館のデリバリーバックに保冷剤を入れると、何分くらい品質を維持できるのかを計測するなど、時間をかけて試しました。

また、クイックコマースの最大の特徴である、「すぐにお届けする」の「すぐ」を実現するためには、商圏や配達エリアをどう設定するべきかについても、検討を重ねました。距離が短ければ短いほど時間をかけずに届けられますが、一方で届け先が少ないと売上を確保できないというジレンマがあります。アスクルからもアイデアをもらいながら、折衷案として比較的近いお届け先が多い通常店と、それよりも遠くのお届け先が含まれる広域店の2つの店舗を作ってバランスをとれるかなど、何回もテストを重ねました。  

月70回利用するユーザーも。新価値創造の手応えを実感

――1号店の反響はいかがでしたか? また、その反響を受けてクイックコマース事業への手応えをどのように感じましたか?

中尾(ヤフー):オープン初日に注文が入りすぎて、午前中で受注を一旦止めるくらいの反響がありました。改めて、クイックコマースのニーズの高さを確信しましたね。

村田(アスクル):私も1号店の反響で、クイックコマースの勝ち筋が見えたと手ごたえを感じました。オープンから半年が経過した現在も、販促効果で新規のお客様が増えると同時に、リピーターのお客様によって売上規模が拡大しています。リピーターのお客様の注文ペースは平均で3日に一回くらいで、なかには月70回ほどもご利用いただいているお客様もいらっしゃいます。レビューでは利便性の高さに対する評価をいただいており、しっかりと価値を提供できていると実感しています。また、年末に投入した高価格帯のおせちが即完売となったり、一日限定で販売した全国駅弁・空弁フェアが評判になったりと、商品戦略の面でもまだまだ伸びしろがあるなと感じています。

清村(出前館):最近では配達員を通じて、Yahoo!マートについて良い評判をいただくこともあります。配達員としては、これまでのフードを運ぶだけでなく、一日を通して安定的に稼げるようになってきているのだと感じています。こうしたお声からも、事業化のスピード感を重視しつつも満足度の高いサービスを提供できているのではないかと感じます。

――各社の役割分担と連携がうまくいったことが、スピード感と事業のクオリティを両立できた大きな要因でしょうか?

中尾(ヤフー):そう思います。アスクル、出前館にはそれぞれの得意領域で存分に力を発揮してもらいたかったので、ヤフーでは主に人的リソースの面でサポートをしました。特に、1号店はオープンが2カ月前倒しになったため、物件探しや工事などを急ぐ必要がありました。そこに対してはヤフーが実働部隊として関われたので、ボトルネックになっている部分を積極的に拾うことでプロジェクト全体の進行スピードを担保できたのではないかと思っています。

清村(出前館):中尾さんがおっしゃる通り、それぞれがやるべきことに全力で取り組める体制を作れたことは大きかったと思います。出前館が注力したのは、スムーズな配達オペレーションを早期に確立すること。 最初は店舗でのピッキング作業から配達員に商品を受け渡すところまでのタイミングがなかなか合わず苦労しましたが、試行錯誤を繰り返しながらブラッシュアップしていきました。

Yahoo!マートのスケールを見据えて3社で知恵を出し合いたい

――今後のサービスの展開に向けて、意気込みをお聞かせください。

村田(アスクル):アスクルとしては、「お客様に付加価値を提供できる商品」を拡充していきたいです。現状の品揃えにはまだまだ改善の余地があり、そこに専念したいですね。また、現在、主要サプライヤー様から「Yahoo!マートに新商品を出したい」というお声もいただいているので、これまでのパートナーシップを生かした新商品の販促やマーケティング強化にも踏み込んでいきたいです。

清村(出前館):我々は注文のプラットフォーム構築と配達を担っているので、これから商品数が拡充されてもスムーズに対応できるよう、現場のオペレーションをさらに磨いていきたいです。また、お届け時間の短縮を含めて、配達品質の高さでサービスのファンをつくりたいと思っています。そして、お客様から「またYahoo!マートで頼みたい」と思っていただけるように努めていきたいですね。

中尾(ヤフー):サービスがスタートしたばかりですが、まだまだ進化していける余地はあると思います。品揃えの拡充、配達の仕組みのブラッシュアップはもちろんのこと、サービス内容そのものについても随時見直しながら、お客様にとってさらに価値を提供していきたいです。そのためにも、ヤフーがうまくファシリテーションしながらアスクル、出前館の専門性をふまえた議論を重ねていきたいですね。

――最後に、グループ内連携の推進役として全体の動きを俯瞰で見てきた田中丸さんに伺います。今後、Zホールディングスではさまざまな領域でグループ内の連携が強化されていくと思いますが、そのうえで今回のYahoo!マートの取り組みは大きな経験になったと思います。具体的に、どのような知見が得られましたか?

田中丸(ヤフー):さまざまな気づきがありましたが、こうしたグループ内の連携事業において特に重要だと感じたポイントは3つあります。1つ目は「座組みを明確にする」ことです。つまり、皆が納得できる役割分担を、最初にはっきりさせることがとても重要であることを、改めて認識することができました。

特に、今回のクイックコマースの座組みは、基本的にあまり議論の余地がなく、スムーズにそれぞれの役割分担が決まりました。結果、各社やるべきことに集中でき、その後の調整なども最小限の労力で済みました。そして、「エンドユーザーにいち早くクイックコマースの価値を提供する」ということに全エネルギーを傾けることができたからこそ、アイデアから1年もかからずに事業化できたのだと思います。

2つ目は、「指揮系統をシンプルにする」こと。Yahoo!マートでは、プロジェクト全体のトップを一人に定めることで、さまざまな物事がスムーズに進んだように感じます。これがもし、3社それぞれから対等な責任者を立てていたら、各々の微妙な方針の違いから行き詰ってしまうこともあったかもしれません。

また、その責任者がしっかりプロジェクトにコミットしたことも大きかった。全体の定例ミーティングを週1回実施していましたが、そこに責任者が同席することで、ビジョンややるべきことが明確になり、現場だけで進めると小さくまとまりがちな話を大きくしてくれた感覚がありました。

そして、3つ目は「経済条件を簡素化する」ことです。一般的に、他社と組む際にはさまざまな経済条件について細かく検討と交渉を重ねるため、時間を要することも多いですが、グループ内連携であれば、早い段階で方向性を揃えてすばやくスタートできる  。もちろん各種ルールを遵守しないといけないですし、今後はさらに細かく詰めていくことになるかもしれませんが、新規事業をはじめる段階ではスピード感が重要となるので、グループ内で連携ができることの強みが生きてくると感じています。

この3つの学びの価値は、とても大きいと感じています。今後のグループ内の事業共創にも大いに生かされるのではないでしょうか。

取材・編集=末吉陽子(やじろべえ)

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