「LINEギフト」がZホールディングスのシナジー効果を早期に発揮。コマース事業の現在地と発展の未来を探る

Zホールディングスは、LINEとの経営統合により、日常生活に欠かせない「情報と人をつなぐ(Yahoo! JAPAN)」「人と人をつなぐ(LINE)」「人と決済をつなぐ(PayPay)」という3つの起点を有する企業グループとなった。世界に類を見ない多様なアセットを活用し、日本・アジアから世界をリードする「AIテックカンパニー」を目指している。

なかでも、グループ内のサービス連携によるシナジー効果を早期から発揮しているのが、コマース事業。とりわけ「LINEギフト」は、2021年3月の経営統合後、ヤフーをはじめグループ各社との連携にいち早く着手したサービスのひとつだ。

「LINEギフト」はグループシナジーをどう活かして成長しようとしているのか。そして、Zホールディングスのコマース事業は、今後どのように飛躍していくのか。舵取りを担う2人のキーパーソンの発言から明らかにする。

ソーシャルギフトを開拓する「LINEギフト」にみるグループシナジー

「LINEギフト」は、LINEのトークを通じて友だちとギフトを贈り合うことができるコミュニケーションサービスだ。人と人をつなぐコミュニケーションアプリであるLINEと、eコマースの掛け算による新しいコマースのかたちとして浸透。LINEギフトを贈ったことがある累計購入者数は1,000万人超、贈られたことがある人を含めると約2,000万人まで利用者が拡大している。LINEギフトへの出店ストア数は約380、取扱商品数は約4万にのぼる(2021年12月現在)。

最大の特徴は、住所や対面を必要とせずにLINEを介して簡単にギフトを贈れる手軽さにある。仕組みを簡単に説明するとこうだ。

ギフトを贈りたい人はLINEギフトに出店している、店頭で商品を受け取る電子チケット「eギフト」と、後日配送してもらって商品を受け取る「配送ギフト」から商品を選び、LINE PayやPayPay決済、クレジットカード決済などで購入する。

eギフトは、LINEのトークを介してギフトメッセージと一緒にバーコードやQRコードを送付。受け取った本人は対象店舗でバーコードやQRコードを提示すると、ギフトと引き換えることができる。スマホさえあれば好きなタイミングで近くのお店で簡単に商品を受け取れるというわけだ。また、配送ギフトは、ギフトメッセージを受け取った本人が配送先住所を入力した後に発送されるため、贈り主に住所を伝えずにギフトを受け取れる。

ギフトを渡すまでの手間やプロセス、心理的ハードルを大幅にカットし、「気持ちを届けたい」というギフトの本質的な価値を最大化できるサービスだといえる。

2015年、LINEギフトの誕生当初からこの事業を牽引してきたLINE株式会社 ギフト事業部事業部長・米田昌平は、ユーザーの動向を次のように説明する。

「ギフトを贈った方、受け取った方、いずれも女性が多い傾向にあります。2021年10月から11月に行った調査によると、サービス認知度が最も高かったのは、20代女性で87%にのぼります。また、男女ともに10代20代においては認知率60%を超えており、若い年代を中心に認知が広がっていると考えています」(米田)

  • 米田昌平(よねだ・しょうへい):LINE株式会社 ギフト事業部 事業部長
  • 新卒で大手通信会社に入社、その後ベンチャー企業を経て2014年にLINEに入社。LINEギフト事業の立ち上げを担い、現在までLINEギフトの事業責任者を務める。

LINEギフトは初期費用や月額費用ではなく、販売手数料で稼ぐビジネスモデルであるため、流通額を増やすことが事業成長につながる。そのためには、さらに認知度を高め、より幅広いユーザーにリーチすること、ひいては幅広いギフトニーズに応えることが重要だ。日常でちょっとしたお礼を伝えたいとき、シーズナルイベントやライフイベントなどで特別な贈り物を届けたいときなど、多様なシーンを想定して、さらにユーザーの利便性を向上させていかなければならない。

なかでも不可欠な要素のひとつが「品揃え」の拡充。ここに、Zホールディングスのグループシナジーが大きく貢献する。現在、グループ間でのサービス連携は急速に進んでおり、LINEギフトの加盟店数や商品数は増加している。

10月には「Yahoo!ショッピング」と「PayPayモール」との商品・在庫連携をスタート。それぞれに出店する加盟店は、Yahoo!ショッピング上で出品設定をすることで、LINEギフト上の商品・在庫の登録が可能になった。すでに600ショップ以上(出店準備中を含む)がシステム連携を開始。商品数は4億点数以上と、国内ECではトップクラスの品揃えをほこる両モールとの連携により、ラインナップの幅はさらに広がりを見せている。

他にも、11月2日には日本最大級の宅配デリバリーサービス「出前館」が出店。出前館の決済画面で使えるクーポンをeギフトの「出前館クーポン」として販売。また、11月24日からZOZOTOWNが新規出店し、ZOZOTOWNでのお買い物に使用できる「ZOZOポイント」を贈れる「ZOZOTOWNギフトポイント」の提供を開始した。11月29日には、「ebookjapan」がギフトクーポンをeギフトで販売開始している。
 
さらに、今後は高級ホテル・高級旅館専門予約サイト「一休.com」や、アスクルが運営する個人向け通販サイト「LOHACO」などもLINEギフトとの連携を予定するなど、Zホールディングスグループのコマース事業拡大に、LINEギフトが一翼を担っている。

2015年にLINEギフトがリリースされてから今日まで、すでに目覚ましい成長を遂げているが、ソーシャルギフトはまだまだこれからの市場であり文化。LINEギフトはソーシャルギフトという新たなマーケットを開拓するべく、今後はZホールディングスのシナジーをエンジンに、この勢いを一層加速させる狙いだ。そのために欠かせない要素について、米田は次のように説明する。

「品揃えの充実を見据えるうえで、私が最も重要な取り組みだと考えているのは、ヤフーとLINE双方の営業チームの連携です。すでに、ヤフーの営業がLINEに出向し、『LINEギフト』の品揃え拡大のためにワンチームとなって取り組んでいます。たとえば、現在『Yahoo!ショッピング』や『PayPayモール』に出店している加盟店様に呼びかけを行い、『LINEギフト』への出店も提案するなどして、さらなる加盟店数の拡充をはかっているところです」(米田)

約10兆円とされる日本のギフト市場で存在感を示し始めたLINEギフト。今後の展望について米田は「『LINEギフト』という新しいコマースと、ヤフーが培ってきた営業ノウハウや体制、そして加盟店様とのネットワークを掛け合わせることで、成長を加速させたい。そして、ソーシャルギフトをカルチャーとして定着させるべく、キャンペーンなどで認知度をさらに拡大させたいと考えています」と話す。

4つの柱を軸に成長を遂げるZホールディングスのコマース事業

ここまで紹介してきたLINEギフトは、Zホールディングスのコマース事業における成長戦略のカギのひとつ。ここからはLINEとの統合で生まれるコマース事業全体の戦略について深堀りしていく。

Zホールディングスにおける、2021年度のコマース事業の売上収益は8,402億円(前年度比24.4%増)。コマース事業の売上収益は、全体のじつに69.7%にのぼる。また、2020年度のショッピング事業の取扱高は1兆5,014億円。前年度比45.1%増で、コロナ禍での需要拡大を受けて大きく成長した。「2020年代前半にEC物販取扱高国内No.1の達成」を目標に掲げ、品揃え、探しやすさ、欲しい時に届くなどコマースの本質的な価値を磨き込みながらオンライン・オフライン横断で取扱高最大化を目指している。

2021年は3月の経営統合以降、「LINEを活用したソーシャルコマース」を成長ドライバーに位置づけ、新たな機能や価値を提供することで競合との差別化を図ってきた。LINEギフトをはじめ、LINEのソーシャルグラフ(Web上の人間関係やその結びつき・つながり、その関係図)を活用したギフト体験、友人やグループの共同購入による低価格でのショッピング体験など、コミュニケーションを軸にした新たな購買体験の普及に取り組んでいる。

ヤフー株式会社 執行役員 ショッピング統括本部長の畑中基は、コマース事業の今後のビジョンについて次のように説明する。

「足元の事業では、『Yahoo!ショッピング』や『PayPayモール』、CtoCの『ヤフオク!』『PayPayフリマ』、BtoCの『LOHACO』、ファッションEC『ZOZOTOWN』の連携を強化してきました。その中で、大きく4つの目標を掲げて、サービス全体をブラッシュアップしています。
1つ目の目標は『品揃えNO.1』です。世の中にある商品のすべてを網羅する状態を目指しています。2つ目は『探しやすさNO.1』。ヤフーはもともとWebの会社ですので、検索のしやすさにこだわってきました。それに加えて今回のLINEや、オンラインストア作成サービス「MySmartStore」を提供するNAVERとの連携により、新しい技術やノウハウを取り込みながら、探しやすさに磨きをかけています。3つ目は『配送NO.1』。ヤマトホールディングス株式会社の協力も得ながら、早く確実に届けることを目標に取り組んでいます。そして、最後が『マーケティングNO.1』。4,000万ユーザー超えの『PayPay』との連携で、『Yahoo!ショッピング』や『PayPayモール』のコマース全体のお得感を醸成していきたいと考えています」(畑中)

  • 畑中基(はたなか・はじめ):ヤフー株式会社 執行役員 ショッピング統括本部長
  • 2003年7月、ヤフー株式会社に入社。「Yahoo!ショッピング」の企画・営業に携わり、2012年に本部長に就任。2018年4月に「Yahoo!トラベル」「Yahoo!ダイニング」の営業本部長を兼任し、同5月にスマートフォン決済サービス「PayPay」の営業責任者を経て、6月にPayPay株式会社取締役に就任。2019年10月より、ヤフー株式会社 執行役員 コマースカンパニー ショッピング統括本部長に就任。2020年3月よりバリューコマース株式会社取締役を兼任。

このほか、オンライン・オフラインを横断した新しいショッピング体験の形も模索している。たとえば、オンラインストアと実店舗の商品データをシームレスにつなぎ、ユーザーが最も適した購入手段を選べる「実店舗在庫サービス」の実現もそのひとつ。現時点では実店舗とオンラインストア間で在庫情報を連携していないケースが多く、オンラインストアで売り切れた商品は実店舗に在庫があったとしても販売することができない。そこで、eコマースとリアルの垣根をなくすことにより「欲しいものが欲しい時に手に入る」世界の実現を目指している。

一人ひとりの課題解決に寄り添い、より豊かで便利な暮らしの実現に貢献していくことを目指し、グループ間のシナジーで新領域のビジネスに挑戦してきたZホールディングス。LINEギフトは、社会に「ソーシャルコマース」という新たな価値をもたらした好事例だといえる。今後も次世代の豊かさや便利さのかたちを世の中に提案するべく、多様な事業ポートフォリオを武器に、新たなコマース体験と経済圏を創造していく。