国内インターネット企業初のグリーンボンド導入。取り組みの背景にある、Zホールディングスが見据える未来とは?

再生可能エネルギーの導入や地球温暖化対策など、環境保護を目的とする資金調達のために発行されるグリーンボンド。欧州からはじまったこの取り組みが、近年、国内企業でも活発化しつつある。今年度、インターネット企業としては国内初となるグリーンボンドを発行したZホールディングスの狙いを、Zホールディングスの財務部部長・中山圭二氏、ヤフーのCSR担当役員であり、ZホールディングスのESG推進室室長を兼務する西田修一氏に聞いた。

中山圭二:Zホールディングス株式会社 財務統括部 財務部部長/ヤフー株式会社 財務統括本部 財務部部長
商社勤務を経て、2003年、ヤフーに入社。財務担当者として、資金繰り管理、資金調達管理などの業務を担当する。2013年から2015年までソフトバンク株式会社(現ソフトバンクグループ株式会社)財務部に出向し、自然エネルギーに係るストラクチャード・ファイナンスなどの資金調達も経験。2017年よりヤフーの財務統括本部 財務部部長。2021年からZホールディングスの財務部部長も兼務。

西田修一:Zホールディングス株式会社 ESG推進室室長/ヤフー株式会社 執行役員 コーポレートグループSR推進統括本部長
広告代理店勤務などを経て、2004年、ヤフーに入社。2006年から「Yahoo! JAPAN」トップページの責任者を務める。2013年に検索部門へ異動。東日本大震災の復興支援キャンペーン「Search for 3.11 検索は応援になる。」を立ち上げる。2015年に検索事業本部長およびユニットマネージャーに就任。2017年から執行役員。2021年からZホールディングスのESG推進室室長を兼務。

日本でも拡大の一途をたどるESG投資市場

――欧州から始まったグリーンボンドですが、日本企業は現在どのような状況にあるのでしょうか。まずは背景から教えてください。

中山:日本でも政府が2030年の国内CO2削減目標を、2013年比で46%減とする目標を発表したこともあり、今まさに国をあげて脱炭素化に取り組み始めています。実際、環境省のまとめによれば、国内企業のグリーンボンド発行実績は2019年で58件・8238億円、2020年で77件・1兆170億円、さらに今年(2021年度)も、上期を終えた時点で早くも57件・7000億円を超えるなど、右肩上がりの状況が続いています。

ESG投資で先行する欧州ではすでに、投資家サイドが企業に対してファイナンスだけでなく、環境に対する姿勢までを問うマインドが根付いています。そこでZホールディングスの中核企業であるヤフーでも、従来からの環境に対する取り組みや姿勢を投資家の皆様にしっかりご理解いただくために、まずは今年の7月に200億円のグリーンボンド発行を決めました。

――そうしたESG投資拡大の流れは、日本市場でも見られるのでしょうか。

中山:そうですね。企業がグリーンボンドをはじめとする環境債を発行した際には、取り組みに対する賛同と投資表明を出す投資家が明確に増えています。自社サイト上で、どれだけグリーンボンドに投資しているかを公表する投資家も増えており、こうした動きは今後いっそう活発になっていくのではないでしょうか。

西田:Zホールディングスがサステナビリティーシフトしていくためには、当然、少なからずコストを要します。そこでこうした取り組みに同意していただけるステークホルダーの皆さんの力を借りながら、ユーザーにとって安心・安全なサービスを構築していきたいという思いが背景にあります。ヤフーでは、「IT(情報技術)で人々や社会の課題を解決する」ことをミッションに掲げています(※)。何より、インターネット業界ではまだ例がなかったことから、まずはヤフーが先行して着手する意義は大きいと考えました。

――では具体的に、ヤフーではグリーンボンドによって調達した資金をどのように活用する予定ですか?

西田:ヤフーでは2023年度までに、事業運営で使う電力を100%、再生可能エネルギーに置き換える目標を掲げています。ヤフーが利用する電力は現状、実に95%がデータセンターでの消費であり、大まかに言えばこれを再生可能エネルギーに変えていく取り組みと、省エネへの取り組みの2つが中心となるでしょう。つまりグリーンボンドによる調達資金は、既存のデータセンターの改善、そして新規のデータセンターの構築に充当することになります。

その一方で、我々が排出するCO2は必ずしもニュートラル、つまり、ゼロにならない可能性もあるので、その分のクレジット購入にあてたり、風力発電や太陽光発電の技術開発に資金を投じたりすることも、長い目で見れば考えられるかもしれません。

――Zホールディングスの中で、先行してヤフーの環境問題の解決に貢献する事業を資金使途に、グリーンボンドを発行するに至ったのはなぜですか?

西田:今でこそZホールディングスとしてLINEをはじめ、多数の企業を擁していますが、たとえば2008年から環境配慮型データセンターの建設を進めるなど、ヤフーには統合以前からこうしたESG投資の視点がありました。我々としてはグループ内でも多くのユーザーを抱え、多くのサーバーを使っているヤフーが、まずはしっかりと環境対策に取り組んでいくことで、グループ内の他の企業も巻き込んでいけるのではないかと考えています。当然、このあとLINEやZOZOが続くこともあり得るでしょう(※)。

Zホールディングスのシナジーは環境の領域でどう発揮されるべきか

――こうしたESG投資が、欧州と比べて日本ではなかなか根付かずにいたのはなぜでしょうか。

中山:これはあくまで私見ではありますが、日本ではかねてからリサイクルなどに取り組んできた経緯があり、環境に対する高い意識があったことが、逆にこうした環境債へのハードルを上げてしまったのではないかと感じます。すでに様々な活動を行ってきたため、新たな取り組みを資金使途として債券を発行する対象にしにくかった、ということですね。また、そうした取り組みに対する政府からの助成金が、海外と比べて桁違いに少ないのも無視できない要因でしょう。我々の場合は海外でもデータセンターを運用していることもあり、そもそも補助金対象にはなっていませんが、この影響は大きいと思います。

西田:また、CSRについての考え方が、欧米と日本ではまったく異なっている点も見逃せません。とくにリーマンショック以降、多くの企業が経営危機に瀕する中、欧米では「やはり大切なのは信用だ」との気づきを得て、それまで以上にCSRにお金をかけるようになったのに対し、日本では「まずはCSRよりも経営を立て直さなければ」と考える企業が多かったように思います。現状を見れば、ユーザーや株主の信頼を得ながらより良い社会を作っていこうと考えた欧米企業がつくったルールに、我々がアジャストしにいっている構図ですから、後追いになるのも当然ですよね。

――また、どうしても現状では再生可能エネルギーのコストが高いため、企業体力の問題もありそうです。

西田:そうですね、現時点ではやはり再生可能エネルギーのほうが高いのは間違いありません。しかしこれについては今後、政府のグリーン成長戦略のもと、少しずつコストダウンしていくはずですし、そうしていかなければなりません。そんな期待の反面、炭素の排出量に応じてエネルギーに課税するカーボンプライシングなど、否が応でも再生可能エネルギーにシフトしていかなければならない状況は生まれてくると思います。であれば、先回りして動き出すべきだろうというのがZホールディングスとしての結論でした。

――グリーンボンドに関するプレスリリースの中で、国際イニシアチブ「RE100」の早期加盟を目指すというお話もありました。

西田:ヤフーとして目指すのか、それともZホールディングス全体として目指すのかについては見極めが必要だと思っていますが、100%再生可能エネルギーへの置き換えが実現すれば、自ずと視野に入ってくるでしょう。何より、すでにグループ内のアスクルはRE100企業です。我々としてはコミットメントをどう示すかという意味合いのものであり、ESG投資やESG融資など、いわゆるファイナンスの点でこうした取り組みというのは今後、より評価の対象として無視できないものになっていくはずです。

――では将来的に、グリーンボンドだけでなくより広範囲なESG投資で資金を調達した場合、どのような用途が考えられるでしょうか?

中山:社会課題の解決のための資金使途としては、ヤフーという大きなメディアを持つ我々としては、わかりやすいところでは防災・減災に関する取り組みが挙げられるでしょう。ただし、ある程度まとまった金額規模でなければ投資する側も手を出しにくい側面があるはずで、このあたりは規模や手法を熟考する必要があると思います。

――それでは最後に、Zホールディングスのシナジーは、こうした環境対策や社会貢献の領域で今後どのように生かされていくことになるでしょうか。今後の展望を聞かせてください。

中山:手前味噌ではありますが、それなりに社会において認知されている企業であることの優位性は大きいと思っています。グループ傘下にはネームバリューのある企業が多数名を連ねており、だからこそ我々が環境面に対する対策をしっかり打ち出して、周知を目指すことは大切です。その意味では、取り組みに対するレポーティングもこれからは重視しなければならないでしょう。

西田:ZホールディングスとLINEが経営統合したことで、我々はより広いユーザーに対してサービスを提供できるようになりました。海外で戦うにはどうしてもGAFAMをはじめとする海外の大手企業が高い壁として立ちはだかりますが、この災害大国と言われる日本で最も役に立てる企業は、間違いなく我々であると自負しています(※)。

とくに災害発生時においては、情報発信メディアとしてのヤフー、コミュニケーションツールとしてLINEがぞれぞれの特性を生かして連携する意味は大きく、有事の際にユーザーの皆さんがいち早く身の安全が確保できるよう、これからも全力でお手伝いさせていただくつもりです。SDGsの11番には「住み続けられるまちづくりを」という目標が設定されていますが、災害の多い日本でこの目標の実現を目指すことが、我々のミッションだと思っています(※)。

執筆:友清哲 編集:やじろべえ