どうなる日本のAI? Zホールディングス各社のキーパーソンに聞く現状の取り組みと今後の展望

日本のAIはこれからどのように発展し、また、どのように活用されていくのか――? AI研究に注力するZホールディングスグループにおいて、ヤフー株式会社、LINE株式会社、株式会社ZOZO、それぞれのキーパーソンに最新事情を聞いた。

谷口博基/ヤフーCDO(Chief Data Officer)
東京大学工学系研究科修了後、マッキンゼー入社。在籍中にカリフォルニア大学バークレー校にてMBA/MOT取得。マッキンゼーではハイテク・製造業を中心に日本企業のグローバル化、提携、買収、新規事業開発、R&D戦略などに関わる。2013年ヤフー入社後は、企業戦略本部で株式会社一休の買収、BuzzFeed Japan株式会社設立などを担当。データソリューション事業本部長などを経て、2021年からCDO。

規模の利を生かしたヤフーのAI活用戦略とは

――ヤフーにおける現在のAI活用について、具体的な取り組みを教えてください。

谷口:ヤフーではAIテックカンパニーを目指して、大まかに「攻め」と「守り」の2つの路線でAI活用を進めています。具体的には、広告のターゲティングや商品のレコメンドのように直接の事業パフォーマンスを向上させる取り組みが「攻め」、そして不正利用を監視して顧客やユーザーの利益を維持するなど安全・安心にご利用いただくための取り組みが「守り」の活用です。また、Yahoo!ニュースやYahoo!知恵袋などのコメント欄について、それが建設的な意見であるかどうかを自動判別する荒らし対策機能も守りのAI活用の一例です。

このほか、「守り」に近いところでは、ユーザーの利便性をサポートするための活用も進めています。たとえばヤフオク!にiPhone端末を出品する際、画像をアップロードすればそれがどの機種でどのようなスペックなのか、画像を解析して自動入力する機能はすでに実装されています。

――ヤフーが持つ検索データやPVデータは、AI開発の大きな強みであると思います。こちらも具体的な取り組みがあれば教えてください。

谷口:まさしく、サービスごとにどのような属性のユーザーが何を検索し、何を購入したかというデータが蓄積されているのは、私たちの武器です。これら蓄積されたデータを組織横断で有意義に活用するために2015年に立ち上げられたのが、データ&サイエンスソリューション統括本部で、部門を超えた横断的なデータ活用を進めようと取り組んでいるところです。

とりわけ検索データというのはユーザーの知りたいこと、興味のあることが反映されやすい、シグナルの強いデータです。これを使えば、初めてYahoo!ショッピングを訪れたユーザーに対しても、個別の嗜好性に合わせた商品レコメンドが可能になるわけです。AIには本来、データを収集するところから始めなければならないコールドスタート問題が付き物ですが、この問題と無縁なのは大きいですね。セキュリティ面の強化は継続的に行っていきますし、全てのデータはプライバシーポリシーに従って取り扱います(※)。

――そして何といっても、膨大なユーザー数は他社にはないアドバンテージですね。

谷口:それは間違いありません。ヤフーのMAUは8,400万以上(スマートフォン、PCの合算)。試算すると、それぞれが発するシグナルをトータルすると月に数兆規模に及び、これがすべてAIにとって学習の材料になるわけです。もちろん、個人情報については慎重に取り扱わなければなりませんが、社会的な価値を持つデータをお預かりしている企業として、交通混雑の解消やコロナ禍での混雑情報の提供など、AIを活用した社会課題の解決への取り組みもスタートしています(※)。

――Zホールディングスになり、ヤフーがLINE やZOZOと連携することは、今後のAI研究にどのような影響を及ぼすでしょうか。

谷口:会社横断でデータを活用するうえではセキュリティー・プライバシー面で超えるべき課題もありますが(※)、それができた前提で言うと、学習にあてられるデータ量が増えることはやはり強みです。また、それだけでなく、それぞれが持っているAIモデルの構築などノウハウの共有も可能です。何より、「Z AIアカデミア」(※後述)のような取り組みが実現するのも、この3社が連携すればこそでしょう。互いにいい影響を与え合い、きっとより大きな力になると感じています。

砂金信一郎/LINE株式会社 執行役員 AIカンパニー カンパニーCEO
東京工業大学卒業後、日本オラクルに入社して新規事業開発を担当。ローランド・ベルガーで戦略コンサルタント、リアルコムで製品マーケティング責任者を経験。その後、マイクロソフトでAzureのエバンジェリストを経て、2016年にLINEへ。LINE BRAINの責任者などを経て、2020年からAIカンパニーCEOに。2019年より内閣官房IT総合戦略室 政府CIO補佐官、2021年9月よりデジタル庁プロジェクトマネージャーも務める。

超巨大言語モデルが持つ「Hyper CLOVA」の可能性

――「CLOVA」や「LINE AiCall」などLINEではすでに様々なAIツールがユーザーの身近に投入されています。この次のステップとしては、どのような展開を予定していますか。

砂金:昨年から、アメリカの非営利団体「Open AI」が開発した文章自動生成AI、「GPT-3」や、Googleが構築しているG5などの事前学習型巨大言語モデルが大きな注目を集めています。これらは膨大なテキストデータを学習する汎用言語モデルで、文章を書いたり画像を合成したり、幅広い用途での活用が期待されるものです。Open AIはマイクロソフトの積極的な支援を受けているため、今後はWordなどのOffice製品に、AIが入力する文章を予測するサジェスト機能が実装されるなど、ユーザーの利便性に貢献してくれるはずです。

しかし、それはあくまで英語圏で行なわれていることに過ぎません。そこでLINEでは日本語、そしてNAVERでは韓国語に特化した超巨大言語モデルの開発に取り組んでいます。日本語版「HyperCLOVA」では具体的に、1,750億以上のパラメータと100億ページ以上の日本語データを学習データとして利用する予定です。実現すれば新しい対話AIの開発を含めてLINEやZホールディングス各社のサービスの品質向上などにつながることはもちろんのこと、外部に技術提供することで日本語における言語処理を用いたサービスのユーザー体験は飛躍的に向上することになるでしょう。

――日本語処理というのはそれだけで開発ハードルの高さを感じさせますが、技術的な課題、あるいは将来の製品化に備えた市場規模の問題については、どうお考えでしょうか。

砂金:おっしゃる通り、英語であれば単語が単語として並んでいるのでシンプルですが、日本語はどこまでが単語の区切りなのか非常にわかりにくい言語です。また、「結構です」とか「大丈夫です」などといった、イエスにもノーにもなる曖昧なダブルミーニングが多いこともネックで、これをAIに学習させるのは至難です。さらに、「カレーは辛くて辛い」という文章では、「カレーという食べ物は一般的にからい」「からいものを食べるのはつらい」という状況や文脈を理解していないと、正しく読むことすらできません。

また、マーケット的にも日本語圏はたかだか1億人程度の市場に過ぎず、とくに近年はGAFAMのどこを見ても日本語開発にものすごく積極的な企業は見当たりません。でも、だからこそ勝てる可能性があるのではないかと考えています。画像認識のように地球上で多くのデータを早く集めた者勝ちの土俵でGAFAMと勝負するのは得策ではないですから、我々は今のうちに日本語市場で超巨大言語モデルを構築することで、大きなマーケットを握るチャンスがあるわけです。

――LINEといえば音声AIの領域で先行している印象です。この強みは引き続き生かされていくのでしょうか。

砂金:すでにレストランの予約や配送事業者の集荷依頼など、音声で対応を自動化するサービスは様々な現場で活用されており、毎日数万件の電話を自動で応対しています。こうした個別業務向けのボイスアシスタントはまだまだニーズがある領域だと思っています。「LINE AiCall」にしても背景にある要素技術はコンシューマ向けの「CLOVA」と共通しているので、これをより発展させ、他業種に展開していくことになるでしょう。

――前出の「HyperCLOVA」も含め、そうしたサービスが発展することで、Zホールディングスには今後どのようなベネフィットが生まれるでしょうか。

砂金:一例として現在、「HyperCLOVA」を使って小説を執筆する実証実験も進めていますが、すでにAIによる作文は高いレベルで可能になりつつあります。これを使えば、たとえばある商品をレコメンドする紹介文をAIが自動で数パターン生成し、そのうちのどれが実際に購買に結びついたかというA/Bテストまでを自動化することができる。結果として高確率で販売に繋がる紹介文が自動生成されるようになります。

AIが精度を上げるというのはまさにこういうことで、ヤフーでもZOZOでもアスクルでも、EC分野のコミュニケーション効率は大幅に向上するでしょうし、運用型広告においても、バナーの自動作成などに応用できるかもしれません。Zホールディングスとしてのシナジーを生かしながら、「HyperCLOVA」はまだまだ先進的な取り組みが多数考えられると思います。

野口竜司/ZOZO AI R&D推進本部 本部長 / ZOZO NEXT 取締役 CAIO
立命館大学在学中に、ITベンチャーに参画。卒業後、ITベンチャー子会社の社長を務めつつ、AI領域で新規事業を立ち上げ。現在は、ZOZOで様々なAIプロジェクトを推進するかたわら、大企業やスタートアップのAI顧問・アドバイザーやAI人材育成も実施。「ビジネスパーソンの総AI人材化」をめざし活動中。著書に『文系AI人材になる』(東洋経済新報社)など。日本ディープラーニング協会 人材育成委員メンバーなども務める。

3社のシナジーが理想的に融合する「Z AIアカデミア」の取り組み

――先ごろZホールディングスが発表した、AI人材育成のプログラム「Z AIアカデミア」。まずはこの構想が生まれた経緯を教えてください。

野口:取り組みの前提として、2021年3月1日にZホールディングスとLINEが経営統合の完了を発表した際の、「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指す」という宣言があります。一方で、AIを“作る人材”はそれなりに増えてきていても、AIを“使う人材”が増えていない現状の課題があり、そこで私が発起したのが「Z AIアカデミア」でした。

AIにできることが飛躍的に広がっている今、それをいかに社会課題とマッチングするかが大切です。だからこそ、ビジネスサイドにAIを使いこなす力を持った人材を育てなければなりません。Zホールディングスグループは、そうした人材の育成を進める上で最適な環境だと思っています。

――先の宣言では、「5年間で5,000人のAI人材を増員する」という具体的な数字も挙げられました。

野口:これはエンジニアサイドを5,000人増員するという意味ですが、作る側が5,000人増えるなら、それを使う側はその5~10倍いなければ市場が成り立たないと考えています。だからこそ、AI人材の教育・育成の場が必要なのです。

――野口さんご自身はもともと文系のご出身です。AIという分野で文系の人材を活用するポイントは何でしょうか。

野口:これは文系にかぎりませんが、大切なのはそれぞれの専門領域の中から、いかに課題を見出し、解決策を模索するかという発案能力だと思います。経理でも総務でも職種や部署を問わず、あらゆるビジネスパーソンが自身の現場で何らかの課題に直面しているでしょうし、むしろAIの専門家ではないからこそ気付けることがあるはずです。

――また、ZOZOグループでは産学連携も積極的に進めています。具体的にはどのような取り組みを行なっていますか。

野口:代表的な例としては、研究開発促進の一環として、国内外のいくつかの大学と共同研究を行っています。また、グループ会社であるZOZO NEXT※では、働きながら博士号取得を目指す人材を支援する、「社会人ドクター制度」を導入しています。これはZOZOグループの事業に関連する研究分野において、博士号の取得を希望する人に対して、給与とは別に学費をサポートするプログラムです。

  • ※2021年10月1日にZOZOテクノロジーズを吸収分割し発足

――この取り組みもまた、Zホールディングスとして貴重なシナジーになりそうですね。

野口:そうですね。要は日常のいついかなる時も、「AIをどう使うか」という課題と自然に向き合えるかが大切で、今はそうした姿勢、マインドを持つ人を増やすことに注力していきたいと思っています。私はAIが果たす役割とは、「人手不足の解消」、「パフォーマンスの改善」、「新しいものの創出」の3つに集約されると考えていて、これを多角的かつ高解像度で考えられる人材の育成は急務でしょう。「Z AIアカデミア」の目的もまさにここにあります。

執筆:友清哲 編集:やじろべえ